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文学談話室

おもにシナリオ脚本を中心に小説・音楽・旅行記など書いています

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長編純愛小説「愛は時を越えて」PB・ケータイ同時掲載版

作家のたまご


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  目  次
1  旅立ち

2  ギャレーの仲間たち

3  運命の出逢い

4  揺れ動く心

5  亜理紗のつぐない

6  ホリデイ

7  再会

8  想い出

9  新人類の青春

10 回顧

11 5番街

12 白い観光馬車

13 フィナーレ

はじめに
「愛は時を越えて」は昨年7月文庫本として出版したものを原作の持ち味を生かしながらケータイ版に内容を新しく書いたものです。

平成7年秋、ビジネス・コンサルタントの裕彦は三十二歳、成田第二国際空港から仕事でニューヨークに向かうのですが、機内で初恋の幼馴染亜理紗はキャビンアテンダント・チーフパーサーとなっていて20年ぶりに運命の再会をニューヨークで果たします。二人は20年の長い年月を埋めるかのように積年の想いを伝えるのですが
美しい秋のニューヨークを背景に、二人の愛は美しく、切なく。またちょっと哀しく進んで行きます。

第一章   旅立ち

平成七年、長かった残暑も終わりを告げ、街を行きかう人々にも夏の疲労が消えて、落ちついた表情を見せていた。昨日の雨も上がり、限りなく青に近い秋の空を見つめながら、錦小路裕彦は、成田第二国際空港国際線出発ロビーに着いた。あるメーカーの北米販売網拡充のための予備調査を一任されて思わず身震いするような気持ちだった。思わず両手を拡げて背伸びして
「よおし、やるぞ」
と決意を固めた。出発までまだ二時間くらいあったので、ポケットからケータイを取り出した。

「錦小路ですが、ニューヨークに行ってきます」
部下の井上が出てきて、
「主任心配しないでください。まかせてください」
という声を聞いて安心した。電話のそばで
「誰なんだ、えっ錦小路君、僕に貸して」
せっかちな声がして。部長が出てきて、
「錦小路君、大変だろうがしっかり頼むよ。ユナイテッド・デリバリー社と契約するための調査だから、君を信頼しているよ」
裕彦は一切を任されていることを改めて感じた。
「部長安心してください、満足な結果得られる調査報告書持って帰りますから」
「身体には気をつけてな、じゃあ」

裕彦は三十歳を過ぎて今一番働き盛りを迎えようとしていた。同じ時期に入社した同期生はもうほとんどが結婚し家庭を持っている。裕彦の母はいつまでも独身でいることを心配し、いろいろ縁談を持ち込んできた。もちろん、いくつかお見合いをしたが、結局このお見合いはなかったことにしてください、本当にごめんなさいと断ったのだった。父は、裕彦に教育熱心だった。特に英語を厳しく教えてくれたが、それ以外の結婚については、裕彦が自分で決めることだとまったく干渉してこなかった。

そういう家庭環境に育った裕彦にはどうしても忘れることのできない想い出があった。
それは幼稚園で知り合った女の子と小学校時代までずっと一緒だった高梨亜理紗を忘れることができなかったのである。なぜなんだ、幼稚園の聖書劇で一緒に出た女の子を好きになってそれから小学校までずっと一緒に過ごしてきてもう二十年たっているのに忘れられないなんて。初恋の人ってこういうものだろうか。
いまだに独身で母に心配掛けて、
「ごめんね」
と謝った。

胸の中では、年齢も三十二歳と仕事を選ぶか、それとも皆と同じように結婚して家庭を持つかで悩んでいるのだった。
そんなことを思いめぐらしている裕彦の頭上に搭乗案内の声が降り注いだ。
「皆様にご搭乗便のご案内を申し上げます。オーシャン航空946便、ニューアーク国際空港へお出でのお客様は27便ゲートにお越しください」。
 27番ゲートを歩くと、その先には搭乗機と直接連絡できる。

同じ頃、出発前のオーシャン航空946便北米線フライトのチェックが行われチーフキャビンアテンダントの高梨亜理紗もそこにいた。プリブリーフィング(ブリーフィングの前段階)は空港会社内の極東航空のコンピューターの端末チェック、端末を使って搭乗便の乗客数、乗客インフォーメーション、機材、駐機場番号、などをチェックして同乗する十二人のキャビン、アテンダントたちの一連の確認なのだ。亜理紗は入社十年たっていた。

キャビンアテンダントの仕事は時間も不規則で搭乗客のサービスに満面の笑みを浮かべながら、襲ってくる時差との戦いにも耐えて、フライトを終えて空港から全身に疲れが出て制服のままでタクシーで帰宅することもままある。フライトを終えて会社を出て立派なマンションに戻り、鍵を開けて中に入るとソファ、テーブル、テレビ、本棚、衣装ケースとオランダから買ってきた西洋人形がさびしそうにしていて、壁には蛍光時計が時を刻んでいるほかはそこには誰もいない空虚な空間が横たわっていた。壁にもたれて制服も着替えずに身体を少し屈めて
「あたし三十二だよね。なにやってんだろう」

亜理紗には、幼稚園、小学校時代に、自分を好きになってくれた男の子、錦小路裕彦がいた。、あんなに小さいときの裕彦の初恋って、裕彦さんが私を好きなんだから。最初は軽い気持ちで、あたしを好きな男の子が居るのと友達に伝えていたのだが、次第に裕彦への思いが深まっていった。
もちろん、自分はキャビンアテンダントでこのまま仕事をして行く行くは客室部長になれないでもない。会社は実力主義を取り始めていたし彼女の仕事ぶりをみなが認めていた。亜理紗にはいろいろな人たちから縁談の話も沢山集まって。それらの話から何回かお見合いした。また同じ会社のクルー、木下機長からも
「僕と結婚してください」
という話もあった。しかし、亜理紗は最後には断ったのだった。自分を好きになってくれた人やお見合いをした人を断ったためにいつしか周囲も亜理紗はきっと仕事に生きる人と周囲に思わせるようになり、お見合いの話も途絶えたのだった。

「私がいけないんだ。いいお話もあったし、木下機長だって、私を愛してくれてるのに」
でも一方では、
「自分が本当に好きだという人に私の愛を差し出したい。どんなにお見合いのいい話があっても自分の心を閉ざして結婚することは自分にとって不幸になるし、相手の人を幸福にできない、そんな偽善的な気持ちで結婚はできない」
と考えていた。

幼い頃、亜理紗は父に連れられて飛行機に乗った。
雲海がかなたにそびえ真っ青な空を何時間も飛んだ時
亜理紗は、
隣の席で寝ている父を起こすように小さな手でゆすぶって
「ねえ、パパお空の下にはこの地図のように線はないよね、皆一つのお空の下の人は仲良くすればいいのにねえ」
父はそういわれて亜理紗はなんとすごいことを言うのだろうと思った。
「亜理紗のいうとおり皆仲良くしないといけないね」
父は亜理紗にほほを寄せるようにして
「いい子だねえ、亜理紗」といった。
そんな父との飛行機の出逢いからいつしかキャビンアテンダントになつて世界をこの目で見てと頑張ってきたのだった。

それで、アメリカの二年間の大学留学から帰国して極東航空に入社、企画開発室を経てキャビン・アテンダントになり、一年前にチーフパーサーに上り詰めたのだった。極東航空は後発会社だったが、高岡社長のお客様サービス主義を第一とし、現場でお客様に接するCA、クルーの会合に参加して乗客のサービス、意見をどんんどん取り入れて利用客も大幅に増加しつつあった。現場の社員を本社各部門に配置し、働きやすい職場だった。

それだけに、仕事に掛ける情熱はすさまじいものがあった。亜理紗と塔乗する新人アテンダントに対するOJT体験実習は、厳しくいつしかキャビンアテンダントたちから鬼の亜理紗といわれ、新人たちからは涙をこぼすほどで恐れられている。かってキャビン・アテンダントになりたての頃は先輩に叱られその辛さ、厳しさを知っているので早く一人前になってほしいという情熱があった。そんな仲間たちから恐れられている亜理紗にもさびしさを漂わせることがあった。もちろん、仕事に掛けては優秀で、新人の教育も徹底していて上司からも信頼されていて、チーフキャビンアテンダントまで上り詰めて生活面では何ひとつ不自由なことはなかった。

亜理紗はふとわれに帰り
「いけない、こんなセンチメンタルな気持ちになって私には大切なことがある。」
と一筋の涙を拭い気持ちを無理に切り替えた。オーシャン航空成田空港支店ではニューアーク946便の出発準備のために慌しかった。
化粧室でユニフォーム姿を鏡で見ながら
「ええと一にスマイル二にスマイルか」
がっつポーズを取って
「私はやるようしがんばるぞ」
とほほを両手でたたいて化粧室を出て行った。

長い通路を客室部に向かって歩く間、成田空港に乗り入れているさまざまな航空会社のCAの制服が趣向を凝らしていて多くは紺色の制服だが、中にはオレンジ・イエロー・レッド・スカイブルー・ブラウンなどに混じってアジア各国の民族衣装をモチーフにした制服を纏っているキャビンアテンダントたちも行き来していて亜理紗は国際的雰囲気を醸し出している光景が好きだった。

そんな亜理紗を通路の階段の柱に隠れていた一人の男が立っていた。
「亜理紗」
突然名前を呼ばれた亜理紗は、
「お、お父さん」
「立派だよ亜理紗」
父は紺色の輝く金ボタンの制服を見て言った。
「ありがとね、来てくれてたんだ」
亜理紗は、キャビンアテンダントとして家を出て生活することを長い間反対されていたので父の一言でやっと融和できたことがなによりもうれしかった

極東航空の客室部のドアを開けて、中に入ると秘書が、
「高梨さん、部長がお呼びです」
亜理紗は、部長が私を呼ぶなんていったい何なんだろうと思った。
亜理紗は、そう思って部長席に行った。
「部長、お呼びですか?、高梨ですが」
「おお、高梨君、ご苦労さま、今回、うちの新しいニューヨークツアーの企画開発のために今日のニューアーク946便で急遽ニューヨークまで飛んでもらうことにした。それでどうだろう伊東葉月、後藤いずみの新人にも経験してもらって」
「はっ、あの新人ですか?」
「たしかにあの二人は、個性が強いとか、自己中心主義とか、僕はあの二人育て方によっては立派なCAになると思うよ」
「部長、ほらこの頃の子ってこうだからこうしてねと言ってもわかってますとかどうしてですか?とか結構こっちの方で後輩に気使うんですよ」
チーフとしての自覚は持っていたが、最近研修を終えて入ってくる新人CA(キャビンアテンダントの略)は苦手と思っている。

「では、まず、私から、秋野さん、小西さんの順にお願いします。」、
「L1の高梨亜理紗と申します。四十三期生です。どうぞよろしくお願いいたします」
「L2の秋野絵里子といいます。四十八期生です。どうぞよろしくお願いいたします。国際線搭乗経験は三年目です」
亜理紗は
「はい、次ぎの方」
「L3の小西優子で四十七期生で」
「L4の山下はるかと申します。四十三期生で」
次々に自己紹介があって新人二人の番が巡って来る。              
「伊東葉月と申します。同じ五十五期生で国際線勤務は二回目です。、よろしくお願いします」
「後藤いずみといいます。同じ五十五期生で国際線搭乗はこれで二回目です。どうかよろしくお願いします」
では、次の方、
(次ぎって言ったけど、私しかいないじゃないか。そそっかしいなあ。)
そう思いながら、皆に伝えておかなければと思い、急にすまし顔を作り、
「ええと、みなさま、各自の受け持ちの非常ドアの確認をしてください。本日ファースト、エコノミーともほぼ満席です。お客様が何を求めているか、注意を払ってクレームが出ないように気をつけてください。ニューヨークまで約十二時間、長時間のフライトですので休息取って疲れないようにしてまいりましょう。

亜理紗は皆の顔を眺めながら新人二人にもわかるように丁寧に説明し頭を下げた。亜理紗はふと本多木綿子のことを考えていた。
今から、この間までは、キャビンアテンダントとして本多チーフパーサーの指図に従って言うことを聞いて、乗客サービスに対応していた。亜理紗は、乗客から頼まれたことを他の仕事をしていてついうっかり忘れたり、行動が遅く厳しくあなたは信用できないと乗客から怒られたとき、深くわびたあと、ギャレーの片隅で泣いていた。

そんな時、
「高梨さん、元気を出しなさい、どうしたの、私に話してごらんなさい」
といつも優しく亜理紗の話を聞いて、励ましたり、家に呼んだり、暖かく抱きしめてくれたり、時には食事に誘ってくれたりしてかけがえのない頼れる先輩だった。

そんな本多が、ある日、
「亜理紗、私、9月1日付で地上勤務になったの」
と一枚の辞令を見せた。
辞令には。
「オーシャン航空本社、企画開発部課長を命ず」
と書かれていた。
「本多チーフパーサー、おめでとうございます。けど、チーフが本社に行かれたら私は誰に相談したらいいかなあ」 
と少しか細い声で本多の顔を見つめた。

「しっかりしてよ、亜理紗、私の後任っていうか、立派なチーフパーサーよ。もう、あなたに教えることないし、これからも色々なれないこともあって戸惑うこともあるでしょうが、あなたなら大丈夫、頑張ってね」
そういわれてもう一年たった。今までは、何か起こっても本多チーフが責任を負ってくれて安心していられた、まるで風雨が強く、防波堤の中に居るように高波から自分を守ってくれるような本多の大きな存在を感じた。これからは、すべて私が六人のCAの前に立って機内の出来事に立ち向かわなければと覚悟しなければと思っていた

皆は納得して亜理紗の説明を聞いていた。なおも皆の指示、キャビン関係、緊急事態発生の対応などについて説明は続いていた。プリブリーフィングを終えて亜理紗は、乗客インフォーメーションを見て車椅子の客、UM(無添乗の子供)を見て
「二百九十七人プラスゼロかあ」
プリブリーフィングを終えるといつものように亜理紗は、駐機場に続く長い通路を六人のキャビン・アテンダントたちと歩いた。歩きながら
「もう十年目かあ」
とつぶやいた。

通路で同期の坂西鈴江が声を掛けてきた。
「亜理紗、しばらくね」
「鈴江、しばらくっ」
「お互いすれ違いだし、これからどこへ」
「946のフライトでニューヨークへ」
「うらやましい、私なんかソウル、バンコク、遠くてドバイ」
「仕事だからね」
「この間、あなた木村クルーと歩いていたでしょう、イマカレ、モトカレ」
「どちらでもないよ、私、一筋派だから」
「あの、初恋の人、会えるといいね」
「まさか」
こんなくだけた会話が出来る同期生って心が休まるなあ、ほんのつかのまだった。

駐機場には機体にグリーンでOALをデザイン化した1970年に就航した400人もの乗客が乗れる BOING747が大きな巨体を横たえていて銀翼がきらきら陽の光りに輝いていた。搭乗機を眺めながら世界の空に羽ばたこうとするこの瞬間が大好きだった。これだからキャビン・アテンダント辞められないんだわといつも大きな瞳で見上げていた。
(しかし、でもあたしは結婚願望でおいおい二重人格者かよ)
と心の中は複雑だった。

亜理紗は、オーシャン航空本社のある霞ヶ関の方向に向かって、
「本多チーフ、ああ違った、本多課長、見ていてください、私は頑張ります」
と言って
階段を上がり機内に入ると亜理紗は並んでいる五人のキャビンアテンダント一人ひとりに手を合わせて微笑みながら、
「さあ、頑張っていこうよ」
といつものようにエールの交換を行った。この仕事はなによりも皆と一緒にチームワークを形成することが大切と考えていた。

、続いて、平井機長、福島副操縦士のクルーが待っている室に入った。
「さあ、合同ブリーフィングを始めよう」
平井機長が言った。合同ブリーフィングとは、クルーとキャビン関係者のCAが緊急脱出時の対応、非常口の確認、到着地までの飛行ルートの説明、天候とか、キャビンアテンダントとして必要とされる説明を行うことなのだ。皆は、長身の平井機長の説明を聞いて、航路上の天気も安定していて、ジェット気流に乗れればニューヨークまでの時間も一時間ほど短縮されることを聞いて安心した。

代わって、亜理紗が、
「では、私たちのサービスプランについて簡単に説明します。離陸後二時間で最初のお夕食ミールサービスを行います。本日のお客様は、ファースト二十名、エコノミーが二百七十七名、トータルで二百九十七名様の予定です。あわせてお客さまの入国書類の配布、食前酒とドリンクサービスの用意を行います。なお、本日は、ベジタリアン(菜食主義者)のお客様が五名ほど居られます。ベジタリアン食は、万一に備え七名様分用意してありますが、間違わぬように充分注意してください。このほか免税商品販売も行いますのでそちらのほうもよろしくお願いします」
皆の顔を眺めながら新人二人にもわかるように丁寧に説明し頭を下げた。

搭乗客を迎えるためにキャビンアテンダントたちがやらなければならないことは非常に多かった。さあこれからが戦場だ、

亜理紗は
「機内の整備状況、サービス物品点検、飲み物とか、お食事の量の搭載、オーデオチェック、それにトイレの確認とか仕事、山ほどあるんで、このチェックリスト見てチェックしてちょうだい」
新人2名が入っているので、
「乗客搭乗まで少ししか時間がないの、協力してやりましょう。葉月さん、いずみさん、頑張ってねえ」
二人は
「はい」
と返事して、葉月はトイレと収納棚チェック、いずみはオーデオチェックに廻るのだった。

乗客の搭乗まで目前に控えていて十二人のキャビンアテンダントはトイレの水の流れ具合、客席のオーディオの確認、国内外の新聞の確認、テレビの状況、荷物収納棚一つ一つのチェックなどをこなさなければならず駆け巡って戦場のように混乱している。一方、ギャレーでも三食分の食材、食器、飲み物の量、免税商品の確認などを短時間で終えねばならず喧騒だった。
「いつも戦場になるし」
亜理紗は低い声でつぶやいた。
「お食事の数、ミート、フィッシュ、それぞれ、それと・・・・そうそうベジタリアン食も」
客席ではキャビンアテンダントたちの声が飛び交っていた。亜理紗はチェックリストを持ち由佳里の数えた結果を記入確認している。

亜理紗は時計を見つめながらハンドマイクを手のして
「乗客搭乗五分前です」
その瞬間、今まで喧騒だった機内がシーンとして元の静けさに戻った。いよいよ搭乗客を迎えるこの一瞬は亜理紗たちを緊張させた。三人のキャビンアテンダントとチーフパーサーは搭乗口に立ち搭乗客を迎えた。
「ウエルカム・トゥー・ボーデイング」、
「いらっしゃいませ」
「こんばんは、ようこそ」、
とことばこそさまざまだったがお客様を心から迎えることには代わりがなかった。

一方、コックピットでは、機長、副操縦士が最終点検を行い離陸準備を始めていた。
 羽田航空管制塔とファーイーストエアーラインの航空機の間で交信が始まっていた。機長が
「こちらは極東航空808便サンフランシスコ行きです」
「ジス・イズ・ファーイースト・エアー27、クリア・トウー・スタート・・・」
副操縦士が復唱して、
「ビフォーアー・スタート・チェックリスト」、
「エンジンスタート3」
「エンジンスタート4」

次々に動作確認をすると、エンジン音がひときわ高くなり、
「ナンバー4スタート、フルパワー」
最後に四つのエンジンが全開して離陸体制が完了するのだった。
一方、機内では、キャビンアテンダントも着席、やがて轟音とともにエンジン全開で滑走路を疾走、、轟音と共に離陸し大空に舞い上がった。やがて、シートベルトサインが消えてFALをデザインした七色のエプロンをそれぞれがまとってキャビンアテンダントたちは忙しそうに働き始めた。

第二章 ギャレーの仲間たち

ギャレーに十二人のキャビン・アテンダントは集まって、亜理紗はてきぱきと指示した。
「いいこと、キャビンアテンダントって看護師とか保安員とか、またある時には主婦とかやさしい恋人とかその場の判断で臨機応変に果たさなければならないの」
今回は新人二人のトレーニングもしなければならずやさしく説明した。

「それ国内線のときに聞きました」
葉月が冷たい反応を見せる。
「このことはむづかしいのよね、つまりお客様の要望って世界各国によって習慣、生活が多種多様だし」
「あたしたち国際線の時にも聞きました」
いずみも同じような態度なのだ。

「香織と優子はお客様のチェックをして呉れる?特に酔っ払ってる方とか具合の悪い方がいないか注意してね」
二人は微笑んで指で〇を作りオーケーと答えた。
「それと不審な動きをする人がいるかも注意して。気をつけて、それとなく見張って」
香織が、
「任せて先輩、あたしたち例えゴキブリ1匹でも逃がしはしません」
ギャレーに居た皆が笑いに包まれる。
「ゴキブリは、機内にはいないけど、その心構えでやって」

亜理紗は二人を送り出した。彼女は、免税品のカートを目の前にして、
「伊藤さん、後藤さん。今日はどちらも満席なの、それで・・・」
亜理紗は全部説明するのでなく仕事がわかってもらうようにいつも質問して新人の意識を高めるようにしていた。いずみが口を開いた。
「それでお客様のお買い物の際に、ドルだけでなく、ロシアだとルーブル、ドイツだとマルク、中国だと元とか・・」
葉月がすかさず
「貨幣のレートに気をつけろといってるみたいな」
「ピンポン」
亜理紗の声で二人は笑った。

自分に比べて五十五期生と言ったことを思い出して、急に歳をとったと思った。何やってんの、ここでひるむなんて
「言って置きますが、お金の換算にはくれぐれも気をつけてね。大変でしょうが」
ここは先輩らしさを見せなければと思った。
葉月が
「あのお、亜理紗先輩、私たち、キャビンアテンダントになってまだ直ぐだし、どうしてですか?、私たちにそんな難しいことを」
いずみも
「あたしもそう思います。なぜですか、貨幣レートの換算の・・・・もし間違えたら先輩責任取ってくれますか?」
(出たっ、やっぱり、どうしてですか、なぜですかが)

亜理紗は、
「あのねえ、言って置きますが、どんなことでも最初は難しいと思うの・・そんな・そんなこと言ってたらいつまでも仕事っておぼえられないわ」
いずみが
「わ、わかりました。先輩が責任持つならやってみます」
と、この場はもう逃れることができないと思ったようだ。亜理紗は新人の教育は厳しく叱るときには徹底的に叱ったが反面、和やかな親しみの雰囲気を醸し出すことは誰よりも優れていた。この二人問題意識があるようだし任せようと思った。機内では、キャビンアテンダントたちがいつも客席を廻って乗客の細かな要望に対処していた。

亜理紗は葉月といずみの様子をそっと眺めていたが
「お客様、免税品はいかがですか」
と声を掛けている二人を見て大丈夫そうねと微笑んでいた

裕彦は、側を通りかかったキャビンアテンダントに
「あの、ニューヨークタイムスありますか」
「お客様今直ぐお持ちしますので」
今度の出張はニューヨークなのでなによりも現地の情報を知っておきたいと思った。英語は際立ってできるほどではなかったが、父が熱心に学生時代教えてくれたので何とか新聞を読んで大筋を理解できるのだった。現地での会話も頑張ってやってきたのだった。

「お客さまおしぼりでございます」
キャビンアテンダントが熱いお絞りを一人ひとりに配って廻る。
亜理紗は皆に仕事を与えた後、ギャレーで 一息ついていた。乗客の様子を巡回していた香織と優子がギャレーに帰ってきた。香織が
「亜理紗助けて」
「はっ、助けてってなに」
「お客様50Dのお子さんが機嫌が悪くて泣いていてお母さんがなだめてるんですが困っておられるようなので」
「それで私がその子を泣き止ませるって言うわけ」

香織は、困った顔をして、
「私たち、お子さんなだめたのですが泣きやまず、亜理紗先輩なら不可能なことはありません」
「香織が私を信頼してくれるのはうれしいわ、だけど無理なことも」
「いいえ、先輩はこれまでもお客様の難問を解決されてきましたし」
「わかった、じゃ行って来る」
亜理紗は、部下や上司に頼まれると決していやとはいえなかった。隅の引き出しから折り紙を取り出してギャレーを出て行った。

50Cの通路側の母親が
「何を言ってもこの子が言うこと聞かなくていやがったりして困ってるんです」
「わかりました、お子様のお名前は」
「隆夫といいます」
「隆夫ちゃん、あのね、お姉ちゃんがこの折り紙でなにか作ってあげましょう」
嫌がってる隆夫が亜理紗の優しい顔を見て、急ににこにこして
「お姉ちゃん、じゃキリンさん折ってくれる、象さんでもいいよ」
「ごめんなさい、お姉ちゃんキリンさんわからないの、その代わり隆夫ちゃんに象さんを折ってあげるね」
亜理紗は隆夫の顔を見つめながら象を折り始めながら、はっとした。


「ありちゃん、僕、折れないよ」
「ひろちゃん、折ってあげるね、ええとこうして」
ふと、自分が幼稚園だったとき、裕彦に象を折っている姿が目に浮かんだ。象を折り終えると、亜理紗は、
「隆夫ちゃん、ほら、象さんが折れたでしょう」
「お姉ちゃん、どうもありがとう」
母親も軽く頭を下げた。
「本当にこの子のために、すみません」
亜理紗はこの時まさか、その裕彦と三十分後に運命の再会をするとは考えてもいなかった。

離陸して二時間、すでにオーシャン航空946便は太平洋上にあった。
乗客は壁の大スクリーンの映画を見ている者、席の前のスクリーンでゲームを行ってる者、あるいはイヤーホーンを耳にあて音楽を聴いている者と長旅を楽しんでいる中で
キャビンアテンダント山下はるかが聞いた。

「お客様お飲み物はいかがですか」
十二人のキャビンアテンダントはそれぞれファーストエコノミークラスと別れて休みなく乗客の機内サービスを行っていた。
「これからまだ十時間の旅か」

裕彦は、カップのコーヒーを飲み終えた時、
「コーヒーよろしいですか、お代わりしましょうか」
まだういういしい感じのはるかが話しかける。
「結構です」
裕彦は答えた。

「次のお客様にお飲み物を聞いてね」
新人に付き添ってる背の高いベテランキャビンアテンダントがいう。新人の機内の実習なのかなあ、裕彦は何気なく彼女の顔を見ると、胸のネームプレートには、OAL TAKANASI 高梨と記されている。
「あっ、似てる、亜理紗さんに」
 
裕彦は、驚きの声をあげようとしてあわてて口を抑えた。
「まさか、あの幼稚園の幼馴染で二十年間消息不明の亜理紗さんじゃないよ」
心の中でそう思う。その瞬間さっき配られた手に持っていたお絞りを床に落としてしまった。
彼女は同じように二十年間も頭の隅から離れない裕彦がこの国際線に乗ってるとは考えていなかった。裕彦に軽く会釈して次の座席でドリンクサービスをしてやがて裕彦の視界から消えた。

「まさか、彼女が乗ってるはずはないよ」
無理に考えを打ち消そうとした。
「だめだ、記憶から消えない、抹消しようとしても、だめ」
あたりの乗客に聞こえない小さな声でつぶやく。
「よおし、今度のレポートでも見ておくか」
そう思って頭上の収納棚を空けてアタッシュケースを取り出して書類を取り出す。北米販売網確立に伴う予備調査、大きな活字が目に飛び込んできたが、さっきの高梨 亜理紗のことばかりだった。

ありちゃん、僕折り紙できないよう
あたしが折ってあげるから貸してごらんなさい
忘れていた幼稚園での想い出がよみがえってきた。

「書類も頭に入らないし」
機内のエアコンはよく効いて裕彦の周りには冷気が漂っている。足の周りが冷えてきたことに気がついて
「そうだ、亜理紗さんにブランケットを持ってきてもらおう、そして聞いてみよう」
そう考えただけで心臓がぱくぱく鼓動しているのを感じた。裕彦は、ちょうど通りかかったキャビンアテンダントに
「済みません、エアコン効きすぎて、ブランケットを」
「済みません、今お持ちします」
と絵里子がいうのを遮るように、
「あのお、高梨亜理紗さんにお願いしたいのですが」
「お客様、高梨亜理紗ですか?」
「ええ、お願いします、友人なので、僕の名前は錦小路裕彦といいます」
「わかりました、その旨伝えます、少々お待ちくださいませ」

彼女が裕彦の伝言を持ってカートを引きながらキャビンに背中を見せて遠ざかって行く姿を見ながら彼女が現れたらなんと話したらいいだろうと心がときめいていた。

平静を装ったもののもう心臓の鼓動が音をたてて耳に聞こえるほどだった。まさか、人違いじゃないのか、でも錦小路っていう苗字は全国探してもほとんどなかった。二十年間、頭のどこかにあったあの裕彦さんがこの飛行機に乗っているなんて。信じられないと思った。

亜理紗はブランケットを取り出し
「行ってくる」
ブランケットを手に持って裕彦に届けに行った。客席17C、ここだわ、裕彦は書類に目を通している。亜理紗は身体を少し屈めて声を掛けた。
「お客様、ブランケット、お届けに参りました」
乗客は、
「どうもありがとう。少し空調強くって」
書類を見ていた裕彦は顔をあげ亜理紗をしげしげと眺めた。

「あっ」
亜理紗は小声で驚いた。幼かった頃の面影が顔ににじみ出ていて
「あ・・あなたは高梨亜理紗さんですね?。横浜の幼稚園時代で一緒だった、僕のこと覚えて・ニューヨークに仕事で行くところで」
そう裕彦から言われて驚いて声も出なかった。のどはからからに渇き思わず
「お、・・お客様、失礼ですが、人違いだと思います。どうも大変し・・失礼しました」
とやっとのことで答えて、丁寧に頭を下げてギャレーに消えた。

裕彦は亜理紗に人違いと言われてひどく落胆した。自分からキャビンアテンダントのコーナーに行って高梨亜理紗に話をしようかとも思った。でもそれは仕事中の彼女を困らせたり傷つけてもよくないと思った。目の前に二十年間想い続けてきた初恋の人とやっとめぐり逢ったのに、その想いは目前で崩れ落ちる思いだった。亜理紗が去ったあと、膝に置いていた書類に目を通しはじめたが、彼女のことだけ考えていた。まだニューヨーク迄、随分時間があるし、また機会があるだろうと考えても落ち着かなかった。ギャレーでは仲間が待っていた。亜理紗はどきどきする心臓を手で押さえながらギャレーに入った。

「ああ、驚いた」、
「お帰りなさい、で、どうなの」
「それが、ねえ、、ねえ、ねえ。もう」とまだ気持ちが落ち着かなかった。
絵里子が、
「何なんです。亜理紗先輩」
亜理紗はまだ驚きを隠しえずに
「か、彼、幼稚園、小学校のときからあたしを好きで。」
葉月が
「超すごいっつ」
絵里子がすかさず
「それでデートの約束したの?」
「う~んん、お客様なにか人違いではないかって・・・・」
絵里子は
「先輩って仕事はすごい出来るのに自分のこととなると弱いわね」
と亜理紗に言ってくる。

「亜理紗チーフ、どうしてそんなことを、最高のチャンスなのに」
「そうかもねえ、ああ、あたしって馬鹿じゃなかろうか」
絵里子が、
「私だったら」
「でも、今はフライト中だし、お客様に愛してるなんて言えないよ」

そこへ乗客の様子を見に行った香織と木綿子がギャレーに戻ってくる。
「何かあったんですか、亜理紗、なんだか元気ないし」
亜理紗は、この二人にもわかっちゃうのかなあ、香織とは一番親しいし知られたくないなあと心の中で考えていた。
亜理紗と香織は歳が二歳違いでいつも香織の相談に乗っていた。
「亜理紗、あなたならどうする?」
と恋人のこととか、両親のことからちょっとした仲間とのトラブルにいたるまで親身になって相談に乗るのだった。

香織は、本当に亜理紗を頼って心強い先輩と尊敬されている。それだけに香織にだけは自分の情けない姿だけは知られたくなかった。
その時葉月が
「亜理紗チーフの恋人が機内に」
「余計なことを言うんじゃないの」
亜理紗は、目をつりあげ葉月に怒って見せた。

気がつくと新人いずみも帰ってきていた。亜理紗は恥ずかしそうにして小さくなっていた。
舞衣子が、
「ねえ、亜理紗、ラブラブのようだけど、今は仕事中だから、ニューヨーク着いてから逢うのはいいけど」
葉月も、
「あのう、こんなこと亜理紗チーフに言ってわるいんですけど、彼の夕食にメモを書いてパンの下にそれを置くとか」
舞衣子も
「ニューヨーク着いた時、デッキでそっとメモを上げるとか」

香織が、
「それとも亜理紗、私がお客さまのところに行って、錦小路裕彦さんをここに呼んできてあげようか」
「そんな」
「お客さまとの対応、会社の規則にあるけど、すでに亜理紗は昔からのお知り合いだから、チーフが行くと目立つし」
「香織、ありがとう、でも私」
「それでここで彼とここで話している間、少しくらいなら、住所とか電話聞くくらいなら、席はずしてもいいよ」

葉月が、
「何だったらケータイっていっても番号わからないか」
「それにわかったとしてもいつもお客さまに機内でのケータイのご使用は計器を狂わせますといってるじゃない、その私たちが」
亜理紗が大きな声を出したので皆、びっくりした。

「皆さん、お気持ちだけでいいの」
「なに、私たちその間、席はずしてお客さまのサービスだって出来るんだし」
「皆、本当にありがとね」
亜理紗は、私の彼のためにこんなに皆が親切にしてくれてと思うと、思わず目になみだが溜まりギャレーの仲間たちってなんと優しく思いやりがありあり素晴らしい仲間だろうと胸があつくなった。









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