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文学談話室

おもにシナリオ脚本を中心に小説・音楽・旅行記など書いています

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短編純愛小説「けだるい夏の日」

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あらすじ

この小説は、昨年7月に出版した新風舎文庫「愛は時を越えて」
に掲載した「けだるい夏の日」のケータイ版ですが
内容は原作とは多少変えています。
タイムトラベルで過去に戻った幸一は、そこで高校生の涼子と


鉄道好きの幸一は土曜日の休日、鎌倉から湘南電鉄に乗って江ノ島に向かいます。
江ノ島駅で見慣れないもう引退した電車に出会って幸一は木造のタンコロに手をかけたとたん、目が廻り倒れそうになったが掴み棒で身体を必死になって支えると7年前の高校生に戻り、なんとそこには高校生の涼子が涼子と幸一は江ノ島に向かうのですが、幸一は7年前に戻り、涼子は17歳7年前の2000年の話で、幸一は2007年25歳の話と二人の話はかみ合わなくなり、涼子はあたしの7年後どうなってるか聞かせてと迫ってくるのですが
幸一は・・・・

そして7年後の幸一と涼子は


鉄道ファンの幸一は、Tシャツとジーンズ姿で,
湿気が身体にまつわりつくようなけだるい夏のお昼
前、湘南電鉄に乗っていた。
幸一の乗った電車は300系と言って楕円形前面4
つ窓がユニークな、旧式の電車で、天井の扇風機がけ
だるい湿った空気をかき回している。

七里ヶ浜を過ぎる左にカーブすると車窓一杯の夏の海
と海の香りが車内一杯に広がった。幸一はこの瞬間が
好きだった。
腰越から道路の路面を時速15キロの超低速度でゆっ
くりと進んで電車が江ノ島に着く向かい側になんとも
う引退したはずの単・コロが2両編成だった。

「おや、単・コロ10系が、なんで?」
 幸一は不思議に思った。
向かい側ホームに止まっている単コロの車体をなでな
がら木製ドアに乗り込んだとたん手を掛けて乗ると軽
いめまい、ふわっとして景色がぼけていく。運転台の
柱に捕まって倒れそうな身体を支えた。

もやもやとかすんだ景色がまた元へ戻ると、
「あっ」
と心の中で驚いた。
あたりを見回すと車内の広告にS社の動物ロボットの
広告とノートPCの発売表示が示されていた。
週刊誌の広告があり三宅島雄山の噴火の惨状と書かれ
ていた。

7年前2000年か、だが幸一のかっこはTシャツ・ジー
ンズ姿で変わらなかった。
前に進むとそこにセーラー服を着た涼子がバトミント
ンのラケットを持ち座席に座って気持ち良さそうに眠
っていたのを発見した。

幸一は、思わず近づいて
「涼子さん」
と声を掛けた。
「あっ、幸一さん、どうしたの、ここってどこ?」
涼子は目を覚ましふと窓の後ろを振り返った。

「江ノ島ね、幸一さんとは学校も違うし、久しぶりだ
し、どう江ノ島に行って見ない?」
「うん、降りようか」
と言って二人は電車を降りた。

「幸一さん、どうしたのよ、此の間家に行ったらいな
くて」
「それ、居ないのは僕は7年後の世界から来たのだか
ら」
「えっ、意味わかんない、幸一さんが7年後の人間な
んて、や~だ、あたしをからかわせないで」
「いや、本当なんだよ」

「あたしが今のままで18歳よ、幸一さんは」
「僕、7年後の人間だから25歳」
「はっ、まじ?」
「そうだからしようがないんだよ」

「幸一さん、じゃ7年後からきた証拠教えて
・・・・あたしに」
「ほら、自動車免許証25歳って書いてあるだろう」
「本当だ、あたしまだ17歳だし免許取れないし、本
当だ、でも25歳なんて信じらんない」
「でも、おかしい幸一さん25歳なんて年令偽ったの」
「そんなことするもんか、嘘だと思うなら」

幸一は頭を盛んにかしげ、疑いのまなざしで見つめる
涼子に、
「ほら、これならわかってくれるだろう」
といってバッグから社員証を取り出して涼子に見せた

大洋観光旅行株式会社 シンガポール支店
内藤 幸一と書かれていたからである。
「本当だ、幸一さん、かっこいい、シンガポール、平
成20年・・・・・本当に7年前から来たんだねえ」

涼子も次々と幸一から7年後の証拠を見せられては
納得しなければならなかった。
「なんかあたしが平成13年で、会いたかった幸一さん
が平成20年でしかも幸一さんはあたしのお兄さん、
本当は高校の同級生なのに」
と怪訝そうな顔をしながら幸一に言った。

幸一はそんな涼子がいじらしくなって、
「たとえ、僕が25歳で涼子さんと7つ違いになっても
今日は高校生に戻ったつもりで」
久しぶりに涼子に会って幸一はときめきを感じていた
「ちょっと待ってて」
といいながら、幸一は、江ノ島海岸に向かう途中の店
に寄ってソフトクリームを二つ、ハンバーガーを二個
買って店を出て立ち止まってる涼子に、
「これ」
といって渡した。

二人は、ソフトクリームをなめながら蒸し暑さが周り
を包んでいる通りを抜けて江ノ島海岸にでれば少しは
涼風も吹いてくるのではと急いだ。
江ノ島海岸に出ると、気が早い海水浴客が数人いる。
江ノ島に通じる弁天橋の下を歩いて砂浜にいつしか立
っていた。

海からの風が二人の頬をなでる。長い黒色の髪が涼子
の顔に掛かった。涼子はそれを打ち払うかのように、
右手で後ろに持っていった。
幸一は7年前に戻って高校生の気持ちに帰っていった

「やっぱり、涼子さんってかわいい」
今日、江ノ島に来て一人で電車と海を撮ろうと思って
いたのが、
初恋の涼子さんに会えるなんて。

幸一は、学校を卒業後、鉄道と旅行が好きだったので
自分の好きな道を仕事としたいと思い、いっそ海外も
旅行できる観光旅行会社、大洋観光旅行社に就職した
のだった。

でも、この業界は業者間の競争が激しく規制緩和に伴
って新手の観光旅行会社がなだれ込んで海外旅行客の
争奪合戦はすさまじくいつも帰宅は午前様だったので
ある。

好きで飛び込んだのに、シンガポール支店に転勤して
からは寝る暇もないほど働いた。
久しぶりに年休を利用して1週間ほど帰ってきて久し
ぶりに電車と海を見たいと出かけて来た。

「あの、幸一さん、あたし7年後どうなってるのか
教えて!教えて」
不意に聞かれて、幸一は、
「それは、でも・・・・・」
ことばを濁した。

「やっぱり聞かないことにしよう、なんか恐い気もす
るし」
幸一は、
「見てて」
と涼子に言いながら身体を少し曲げて右手で思い切っ
て波に向かって投げた。小石はポン・ポンと弾みなが
ら遠くに飛んで行った。

「面白~い」
 涼子も小石を拾って右手で水平に飛んで行くように投
げた。
その姿を気づかれないように秘かに写真を撮った。二
人は顔を見合わせて笑った。
 
幸一と涼子は江ノ島をつなぐ弁天橋を渡って歩いた。
 沖合いを白いヨットが2隻、波をけって進んでいる。
立ち止まって二人はそれを眺めた。
 橋を渡り終えて左の道路を歩いて防波堤の方に向かっ
て歩いた。
海からの微風が二人の顔をなでる。涼子は顔に掛かっ
た髪を手で振り払った。

防波堤には、釣り糸をたれて海釣りを楽しんでいる一
人の老人がいた。
涼子は側に行って老人に尋ねた。
「おじさん、釣れますか?」
 老人は、
「今朝からまだ1匹しか釣れていないよ」
 そう云ってボックスを開けて魚を見せてくれた。
「昔は防波堤もなくてこの辺なにもなくて、魚もよう
釣れたんだけど」
 老人はそういって麦藁帽の下の日焼けした顔で笑っ
た。

「幸一さんは、釣りするの?」
 涼子に突然尋ねられて幸一は
「やるけどさ、あまり好きじゃないんだ」と答えた。
「昔、父の会社の釣り愛好会があって、小さいとき近
くの沼に行って、いきなり雷魚が二匹釣れて恐くなっ
て。それが僕の顔をにらんでいるようで」
と話すと
「面白~い」
と涼子は笑った。
「それ以来釣りに行かなくなって」
と幸一は言った。

しばらく二人は休んで元来た道を戻り、海産物やみ
やげ物店の並ぶ細い江ノ島参堂の道を登った。
 潮の香を含んださざえを焼いてる香りが漂ってくる。
「おいしそうな匂い」
涼子は言った。

「食べる?」
 幸一はそういって店の中の奥の椅子に腰掛けた。
 涼子は運んできたサザエのつぼ焼きをおいしそうに食
べながら、
「食べないの?幸一さん」と聞いた。
「僕はどうも海の香りの強いものは」
と言ってコーラを飲んだ。

涼子は、
「ねええ、幸一さん、じゃなかったか、あたしより7
歳上だからお兄さんだよね」
と幸一に話しかけてくる。
「まあね、そうだけど、今日は高校生に気持ちもどっ
てるんだから幸一でいいよ」
「じゃあ、幸一」
「うん」

「あたし、今日バトミントンの練習だったんだけど、
幸一はたしか演劇部だったよね」
幸一は、またもや涼子から言われて一瞬戸惑ったが、
「うん、ハムレットとか以前やったんだけど、今度は
オリジナル作品書いてやろうかということになって、
僕が」
「幸一、監督?」
「そんな偉そうなものじゃないけど、シナリオ書いて
言いだしっぺだからシナリオ書けって言われて」

「すご~い、シナリオライターなんて」
「でも、いい思い出だよ、高校生活の忘れられない想
い出だ」
「あたし、幸一さんの発表会見にいけなくてごめんな
さい」
「いいよ、もう7年前のことだから」

涼子は、幸一の話を聞きながらつまようじでさざえを
つまみ出しておいしそうに食べていた。

「ねえ、幸一、あたし7年後のこと聞きたいの」
涼子は本当に真剣に聞いてくる。

「そのこと、いえないよ」
「あたしと幸一、どうなってるの」
そう聞かれて幸一は大いに困惑した顔をさせて、
「それ、いえないよ」
幸一は首を横に振った。

誰もが未来から戻ってきて突然恋人とか友人にあった
ら一番聞きたいことだろう。

実は、涼子は20歳で、つまり2年後友人と原宿を歩い
ている時に道端でスカウトされていつの間にかモデル
になったのだが、それから一年後、自転車で阪を降り
てきて出会いがしらにバイクと追突、病院に運ばれた
が、幸い軽症で3週間後退院したのだった。

幸一は、涼子が事故で入院したことを知ると、ずっと
涼子の父、母同様に付きっ切りで涼子の枕元で介護を
したのだった。

ちょうどその後、幸一に海外赴任の話が持ち上がり、
涼子の様子を心配しながらシンガポールに向かったの
だった。
「涼子、元気でね、何もしてあげられずごめん」
ベッドで寝ている幸一に握手をしようと手を差し伸べ
ると、涼子はベッドから両手でベッドの支え棒を握り
起き上がり、
「幸一さん、あたしこそ、いつかまた逢いたいわ、約
束して」
と不自由な身体で起き上がって立とうとしている。

幸一は、思わずパジャマ姿の涼子を手で支えた。
涼子のほほにナミダが
二人は誰もいない個室で固く抱き合った。

幸一は、当時の出来事を涼子は、実はと話そうとも思
ったが、涼子が事故にあったこと、それが元でファッ
ション所属事務所を解雇されたことなど、涼子には話
せなかったのである。

「・・・・・・ごめん」
「幸一、お兄さん、7年後も一緒なんでしょう」
涼子は、幸一に執拗に迫った。
幸一は、涼子に執拗に7年後のことを聞かれても話せ
なかった。

運命とは、ある日、突然その人の将来を大きく変わるものであり、
涼子が原宿でモデルにスカウトされたことがきっかけで、
そしてその後バイクと接触事故にあって入院したこと、
その頃、幸一がシンガポール事務所に赴任して、二人は永遠に別
れることとなること、そんな出来事を今17歳の純真無
垢なセーラー服姿の涼子には話すことが出来なかった
のである。

「涼子さん、ごめんなさい」
幸一は、椅子から立って涼子に深々と頭を下げた。
「仕方ないよね、幸一がそこまで言うのでは」
今日一日、高校生に戻って涼子と楽しみたかった。

「じゃ、出ようか」
「うん」 
店を出て江ノ島神社に通じる赤い鳥居を左に上ると
江ノ島エスカーが見えた。

「以前はここから長い階段で頂上近くまで歩いて20
分近くかかったけど、今はこの江ノ島エスカーで楽に
5分くらいで行けるようになったんだ。」
「ずいぶん便利になったのねえ」
 二人はエスカーに乗り換えては歩いていくと右側に
江ノ島植物園と展望塔があった。

「ここ入って見ようか」
「うん」
幸一と涼子は江ノ島植物園の中に入った。

公園の小道は熱帯植物の木々が覆っていて海から吹い
てくる風がけだるいような暑さを和らげた。
「あたし江ノ島っていつでも来れると思ったりして
えここは入ったことなかった」
「僕もなんだよいつも素通りしてこの先の階段下り
て岩屋の洞窟には行くんだけど」
 
二人は園内をゆっくり回った。
「この植物園には100年に一度しか咲かないアオノ
リュウゼツランとか、5000本の珍しい亜熱帯植物
があるんだよ」
「いま咲いているなら見た~い。まあ100年に
1回なの?。らんって夏咲くんでしょう」
 
二人はアオノリュウゼツランの花を見にいったが、葉
っぱだけだけだった。

「やっぱ無理ね」
「あっリスがいる。見て、見て」
 涼子がびっくりした声で幸一に言った。
「本当だ可愛いなあ」
リスは木の枝にいて両手で一生懸命木の実を食べてい
た。
 「あっ可愛いい~」
「ねえぇ、あの顔幸一さんに似てるかも・・・・」
「はっ僕ってあんな顔?」
 
二人はリスをしばらく見つめながら大きな声で笑って
いた。
小動物のいる小さな動物園には子供たちが喜んでい
た。しばらく歩くと目の前に展望台が二人を見下ろす
かのように行くてをさえぎるように屹立していた。

「ねえ、あの上に上ろうよ、きっと眺めがいいと思う
よ」
 幸一は展望塔を見上げるようにぽつんと言った。
「そうねえ、だってここでさえも高いんだからきっと
いろんなとこが」

二人は、屋上に続く長い階段を登りはじめた。展望塔
をさえぎるものはなく階段の隙間から海風が吹き上
げてきてここちよかった。

屋上は江ノ島の最先端で二人はそろって
「すご~い」
360度の眺望は少し霞んでいたが箱根の山々から
伊豆・そして三浦半島、葉山、鎌倉と、目を東に転ず
ると遠く横浜まで見えて横浜スランドマークタワーが
霞んで見えた。

「晴れていると富士山とか大島が見えるそうだよ」
幸一は欄干にもたれている涼子に言った。
「う~んん富士山見えなくてもいいわ。幸一さんと
久しぶりに会えただけで」涼子は、振り返えり首を横
に振って言った。

 幸一は涼子の仕草を見て
「涼子さんって可愛いなあ」
と心の中で思った。7年後の僕は25歳、7歳も離れて
いてもやはり高校生の気分に戻ると可愛い
幸一はそう思った。
二人は展望塔の欄干にもたれてしばらくうっとりとし
て景観を楽しんだ。
 
展望塔を降りて、植物園のベンチで二人は休んだ。
「ねえせっかく来たんだから写真撮ってもらおうよ」
と涼子はかばんの中から赤いデジカメを取り出した。
「ええと二人で撮ろうよ」
「うんそうしようか」
幸一はちょうどとおりかかった若者に声を掛けた。
「はいチーズ」
二人はVの字を大きく手で示し同じ写真を二枚撮って
もらった。

「ハンバーガーだけど」
幸一はそういってかばんの中に入っているハンバーガ
ーの入っている袋から取り出して涼子に差し出した。
「あれ幸一さんいつ買ったの?」
「さっきソフトクリーム買ったとき一緒に」
「幸一さんてずいぶん気が効くのねえ」
涼子はそう云ってうれしそうにハンバーガーを被りつ
いた。幸一は走って行って、氷で冷やした缶コーラを
手にとってほほにあて冷たそうな缶を選んで買って急
いで戻り、
「はい飲み物」
と言って涼子に差し出した。


二人は右手にハンバーガー左手に缶コーラを持って話
した。
幸一は
「涼子さん、2年後に僕がシンガポールに赴任す朝、
成田空港まで車椅子で・・」
といってからあわてて口を右手で押さえた。
「はっ、私が車椅子・・・何それ」
「いやいや、涼子さんでなくて車椅子の人が居てね」
となんとか誤魔化そうとしていた。
「危ない、危ない」
と考えながらも、2年後11:00出発のタイ航空のロビ
ーで涼子のくるのを待っていたのだった。

「お待たせしました、11:00発のタイ航空458便シン
ガポール空港にご出発のお方様は22番ゲートまでお越
しください。
涼子は交通事故で足の軽症で入院していたが、幸一が
最後に病院に行った時、
「幸一さん、必ずわたしお見送りに行きます、なん
か、これが最後のような気がして」
「なにいってるの、僕だって半年ごとに東京本社で会
議があるし」
「・・・・・・」
そんな会話を交わしながら、無理とは知りながら、
空港アナウンスを聞きながらやがてトランクを引いて
出発ロビーに向かっていった。

後ろからその時「幸一さん、幸一さん」といいなが
ら、看護婦に車椅子で引かれて良子が手を振ってくる
のを見た。
幸一は立ち止まり、車椅子に乗っている涼子を見て駆
け寄ってひざを曲げて
涼子に近づき手を差し伸べた。
「涼子さん、やっぱり来てくれたんだね」
幸一の目に涙が光った。

「幸一さんなに考えてんの」
涼子からそういわれて幸一は、
「ああ、ごめん」
と涼子に謝った。

「今日は幸一さんも、違うお兄さんもあたしと同じ
高校の同級生でしょう、一日だけど」
「そうだよ」

「でも、幸一さん、なんか歩いていてもあたしの2年
先のこと考えてるし」
「わかった、あと、どこ行こう」
「あのさ、・・岩屋洞窟もあるけど、遠いし、駅に近
い江ノ島水族館ってどう」
「そうだなあ、案外魚見るのもいいね」
 
二人は元来た道を再びエスカーに乗って下り江ノ島を
後にした。弁天橋を渡ると喧騒な音と排気ガスのにお
いや湿った風が身体の回りをまつわいつきけだるさを
さらに増して自動車が行き来していて江ノ島の静けさ
がうそのようだった。

「ちょっと待ってて」
幸一はそういって涼子を待たせてマクドナルドの店に
入り、マックドポテトを注文して涼子の元に駆けなが
ら戻ってきた。

少し歩いて江ノ島水族館の中に入ると冷気が二人を包
んだ。
「わあ、涼し~いっ」
 けだるい暑さから開放されて巨大水槽のある場所に駆
けて行った。

「ここは、相模の海を切り取ったような大水槽で8千
匹のいわしが泳いでいるんだよ」
「すご~い、いろいろな魚が居るみたいな」
涼子は驚いて大きな瞳で上を見つめていた。
「あまり高くって首が痛くなるよ」
と言った。

 水族館とマリンランドを結ぶ約40メートルの地下
通路は壁面には発光アートアクア・パラダイスがあっ
てラッコ・いるか・ペンギン・ザトウクジラ・クラ
ゲ・ウミガメなど、いろいろな海の生き物が黒く浮き
上がっていた。

二人は、壁画を眺めながら左右、天井の円形水槽を泳
ぐえいやさめにも目を配って歩いた。
「海の中に居るみた~い」
涼子は立ち止まってそう言った。
「あの中で泳いで見たい?」
「まさか、えいとかさめが居たら恐いよ」

「この水族館に来たからには・・・・・・」
幸一は、涼子にいるかショーを見せてやりたいと思っ
た。
「そうそういるかショー見なきゃ」
と幸一は涼子の手を引いてショー会場の採集時間に間に合うよう駆けた、駆けた。
幸一は自販機で缶入りドリンクを買った。
「ちょうど良かった、3時30分の最終に間に合ったよ」
「もう、私、もうどきどきよ、心臓が」
 
二人は扇状のスタジアムの席に腰掛けた。
「食べる」
と幸一は、さっき買ってきたポテトフライの箱と缶コ
ーヒーを涼子に差し出した。
二人は、箱に入ったポテトフライをr突っつきながら
仲良く食べた。

水族館の飼育スタッフが出てきて
「それでは、今日最後のハッピー・テイルショーを行
います」
とアナウンスがあり円形の水槽の中のいるかに話しか
ける。
 子供と大人たちが水槽の中のいるかと握手をしたり触
ったりしていた。

いるかショーがはじまり水槽をゆうゆうといるかは泳いでいたが、突然空中を
舞うかのように見事にフライングした。水しぶきが飛
び散って水槽の前の観客に水しぶきがパッと散って掛かった。
二人は大勢の観衆に混じって拍手をした

涼子は、ふとわれに帰って、腕時計を見て、
「もう4時だわ、あたし、帰らないと」
と言った。その時、涼子のかばんの中のケ
ータイが鳴った。ケータイを取り出すと母か
らだった。
「どうしたの、涼子」、
「お母さん、幸一さんに会って」
「ああそう、よかったね」、
と母は安心したようだった。

「楽しかった幸一さん。部活が休みになって
よかった」
「僕も涼子さんと一緒でよかった。・・・・ぼ、
僕は・・・涼子さんが好きだよ。・・・・・・」
 幸一はそういいかけながら、
「でも・・・・涼子さんと僕は7年違うんだ」
 
涼子は、
「幸一さんからあたしを好きだって言われるのって
悪い気持ちはしないし・・・・・・・」
と答えた。
「でも、あたしがあなたと今の気持ちのままでずっと
いたい、そうしたらまた・・・・・・逢えるじゃない」
と涼子は幸一の顔を見て言った。

涼子は、
「あれ、幸一さんのケータイってずいぶん薄くてすご~い」
と言いながら幸一が手にしていたブルーのケータイに気がついた。
「今、会社にかけたんだけどつながらない」
「あたしのPHSだけど、場所によっては話せないの、幸一さんは」
「これ、テレビも見えるし、世界各国どこでも話せる
んだ」

「7年後ってすごい、幸一さんが持ってるのすご~い」
とじっと見つめていた。
「涼子、君に上げるよ、でも今は使えなく無理なんだ」
「えっ、あたしに悪いよ」
「いいから、僕はまた買えるんだから」
「本当、うれし~い。今使えなくてもあたし、7年間
ずっとこれ見るたびに、幸一、違うお兄さんのことず
っと考えてられるし」

二人は江ノ島駅に向かって歩き、一軒の写真屋に
寄ってさっき撮ったデジカメのメモリーを外して店主
にプリントを頼んだ。
まもなくパソコンのプリンターから二人の写真が二
枚出てきた。
「どうも、お待ちどうさま」
写真を受け取って、涼子はにっこりと微笑み二人は
それぞれ大切にかばんに入れた。
 
江ノ島駅に着き、涼子をタンコロ100型レトロ
電車に送った。
「幸一さん、またねえ」
涼子の声を背中で聞きながら、振り返ってガラス窓
越しの涼子に手を振って2番線の停車中の電車に向か
って歩いた。電車のドアに手をかけて足を踏み入れた
とたん、幸一はまためまいを感じ耳がつーんとしてき
た。周囲の景色が次第に霞み、ふらふらとした身体を
握り手でしっかり掴んだ。どうしたんだろう、2回も
めまいがして、不安な気持ちが襲うと同時にぼんやり
していた視野がはっきりしてきた。遠くに聞こえてい
た音もはっきりと戻った。

ああ良かった。気がつくと元のTシャツに短パン姿
のままで7年後今に戻っていた。
 僕は夢を見ていたのだろうか、幸一はそう思った。
「お待たせいたしました。ただいま信号機が直りまし
たのでまもなく藤沢行きが発車いたします」
 
電車は何事もないかのように5分遅れでけだるい夏の
午後の日を藤沢に向けて走るのだった。
カメラを収めたバッグを開けると、そこには涼子と一
緒に撮ったセピア色に変色した写真があった。
「夢じゃなかったんだ、写真がここに」
 そう思って幸一は写真をしみじみといつまでも見つめ
ているのだった。

・・・・・・・


3日後、幸一は成田国際空港にいた。
空港ロビーは外国人も混じって出迎える人、見送る人
の人並みで華やかだった。
香港・ソウル。バンコクなど、昼間は主に東南アジア
の中距離ジェット旅客機の発着が多い。
幸一は誰も見送りのいないロビーで案内アナウンスを
待っていた。・・・・・・・・



幸一はシンガポールチャンぎー空港よりタクシーを拾
ってそのまま会社にに出勤した。
柳沢支局長が
「お帰り、休みどうだった」
と聞いてくる。
「ええ、まあまあでした」
まさか7年前に戻って高校時代の恋人に会いましたと
はいえなかった。
そんなこと誰も信じてくれるはずはないし、
涼子と自分の秘密にしておきたかった。

「早速で悪いけど、あさってTRAVELの来月号特集でバ
リ島を取り上げることになって、本社からも君に取材ご指
名なんだ」
「えっ、もう・・・ですか」
部長は、
「年休とって東京に帰ってきたんだから今度は思い切
って働いてもらうよ」
そういい終わると、現地駐在のシド・マリーが、
「幸一さん、バリの資料とかここ置いておきます」
といって幸一の机の上に紙袋を置いた。

ロッカーに東京からのトランクを閉まって今夜は久し
ぶりに外食しようかと思った。

赤道直下のシンガポールは日中は33度の海から湿った
空気を運んできて身体をまつわりつくように暑いが、
さすがに夕方になると暑さも和らいでくる。
夕方6時半、東南アジアの夜はなかなか来ず、ぎらぎ
らした太陽の輝きはまだ、シンガポール湾に沈もうと
はしなかった。

幸一は東西2kmにわたってショッピング・ホテル・デ
パートなどが林立しているオーチャードストリートを
歩いていた。

一週間ぶりに見るシンガポールの道路は、緑樹が生い
茂ってベンチも置かれて、道端のところどころに置か
れた小さな花壇には南国特有の赤いブーゲンビリアが
咲き誇っていた。
幸一にとってはもう見慣れた光景になっていた。
「もう5年目か、シンガポールの独身生活も」
一つ小さなため息をついた。

ふと、日本書店に目が吸い寄せられた。
華やかな女性雑誌、ファッション誌のELEGANTLADY
の表紙にあの細井涼子がすっかり美しくなり巻頭を飾
っていた。
「あっ」
幸一は驚いて無造作に雑誌を掴んで90セントを払って
外に出た。

夕食はこの先の屋台にしよう。
シンガポールの屋台は衛生的で政府公認の外国人が安
心していろいろなエスニック料理を味わえるのだ。
公園の中にはさまざまな屋台があって香港・タイ・イ
ンド・台湾。マレーシアなどの食事が安い料金で味わ
える。
まさに幸一のように独身男性の旺盛な胃袋を満たすの
だ。

屋台のある公園は道路と公園を大きな緑樹が仕切って
いて表通りの騒音は遮断され、わずかに木の間から赤
いロンドンバスや車の灯りが漏れてくるだけで別天地
だ。

幸一は、ナンとカレーを頼んで緑樹の下の椅子に腰を
下ろしてELEGANTLADYの表紙、細田涼子をいつまでも
ずっと眺めていた。・・・・・・・・


一方涼子は、5年前の足の傷もすっかり癒えてまたと
きどき雑誌のモデルをハケン社員で登録して活躍して
いた。

仕事が終わり涼子は、同じ仲間のあきと一緒に外に出た。暑さと湿気でひんやりした室内から出るとぎらぎら輝く夏の太陽が両腕に焼きつくように暑い。

「先輩、今日これから私合コンですけど、行きません」
突然あきにいわれて、
「合コン、いいね、いいね、行って見たいな」
涼子もこの所、ハケンとしてたまに声がかかってくるモデルの撮影にでるほかは家にいることが多く単調な生活を送っていたのだ。

最初のうちはシンガポールの幸一にメールを打って必ず幸一からもメールが届いたのだが半年ほど続いたもののばったり途絶えてしまった。

涼子はあきに、
「行くよ、連れていって」
と頼んだ。

書店の前を通り涼子は自分が載っている今月号のELEGANTLADYを自分の出ている雑誌が目に付いた。
二人で雑誌を買って
「あたし、たまに海外に行きたいなあ」
涼子に
あきも
「いいね、私もシンガポールあたりどう」
「一緒にいこうか、ハケンだから安いシンガポール」

TRAVEL、表紙をめくってぱらぱらとページを見ていて
思わず、
「あっ」
と声を出した。
あきが、
「えってなにかあったの」
涼子は
「うん、何でもない」
そこにはシンガポール楽園都市ガイド・本誌記者内藤
幸一の名前がそこにあった。

涼子は急いで2冊の本をカウンターで買って
あきに
「ごめん、あとで合コンに行くから」
「じゃ、場所はここで電話は」
あきがメモしてくれた。
「なにか、あったの、さっき驚いていたし」
「何でもない、じゃあとで行くから」

新橋駅に向かい山手線新橋駅ホームでラッシュアワーの電車を見過ごしてホームのベンチに腰を下ろしてトラベルの幸一が書いたシンガポール楽園都市の記事をむさぼるように読みふけっていた。

涼子のELEGANTLADYは二つ折りにされて赤い大きなバ
ッグにはさまれて・・・・・・

涼子も幸一も東京で、シンガポールで同じ時間、お互
いの出ている、書いた雑誌を夢中で読んでいたことは
定かである。気持ちはつながってるのだ。

二人の今後がどうなったかわからないままに









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短編青春小説「終電車」



その鉄道は明彦の住んでいる大都会から二、三時間ほど電車で山間に入った過疎の町を走っていた
井田明彦は何よりも鉄道が大好きで、鉄道雑誌を見ては香mれら片手に一人で出かけるのだった。
妻の真理子は、
「あなたが、デパートが好きだったらよかったのに」
と思わず本音を漏らす。
「鉄道好きだとあなた一人で楽しむし」
「ごめん、時々君を一人にさせて・・・・この穴埋めはきっと・・・・・」
「あなた、結婚前二そんな話聞かなかったわ、もし、聞いていたら・・・・」
妻は相当怒っているなあと思う。

「それともたまにはどうだ、僕と一緒に来るか」
「いやよ、この前だってさ、あなたSL撮るからって言ってさ、1時間も帰ってこなくてさ」、
「あの、何も汽車みなくても、ほら・・・・ええと、あの何とか言った
麦とろのおいしい店、ごちそうしてあげるから」
「丸子庵」でしょう?」
妻はぶっきらぼうに答えた。
なだめてもすかしてもどうにもならないと悟った和彦は、書斎の引き出しから映画の鑑賞券を2枚出して、
「これ二人でと言われたんだけど君のお母さんと一緒に見てきたら」
「今日のところ許してあげるわ、行ってらっしゃい」
「久しぶりに映画のあと、君のお母さんの家に泊まったら」
「でも、あなたのお食事のこと気になるし」
「いいよ、コンビニもあるし、冷蔵庫にも残り物が」
「あなたの何ていうかそういうとこに負けちゃうのよね」
明彦は交渉成立してほっとして家を出た。

大東駅から都心に出て新幹線で2時間のところに過疎の鉄道があった。
新幹線ホームをエスカレーターで下りてビルの立ち並ぶ駅前の広い通りを300メートル歩くとと木造の不似合いな小さな駅舎があった。すでに鉄道廃止をどこから聞きつけたのか大勢の群衆に混じって鉄道ファンも詰め掛けていて駅はごった返しだった。
赤色の電車は15メートルの長さで玩具のように可愛かった。
明彦はやまと鉄道の廃線記念切符を手に入れて狭いホームで電車の来るのを待った。
間もなくして赤い車体を左右にゆらせて赤い四両編成の電車が到着した。
いつもは1時間おきの運転も今日が最後の日で乗客も裁ききれないほどの人たちのために20分おきに電車を運行していた。

車体には横断幕でやまと鉄道さようならと書かれていてホームの頭上のスピーカーは
「今日を持ちましてやまと鉄道は廃止となります。長い間のご愛顧ありがとうございました」
と繰り返し放送していた。
鈴なりの乗客を乗せて蛍の光の調べに乗って赤い電車はホームを離れた。
駅を離れ500メートルほど走り鉄橋を渡り大きく左に曲がり、5分ほど走り、最初の停車駅、北浜南駅を過ぎると家並みも少なくなってあたりは茶畑になった。
電車はすぐ側を併行して走る県道の自動車に何台も追い抜かれて古いモーター音をさせながら甲高い音をさせて走った。

点々と農家があり、柿が赤く色づいた実をつけていてのんびりした秋の光景を醸し出していた。屋敷田、久保塚、やまと高井、重原、平石を過ぎて、秋の木漏れ日に電車の陰が長くどこまでもついてきた。単線のこの鉄道は山中駅で対向電車といつもすれ違うのだった。
閑散としたこの駅も今日ばかりは鉄道ファンがカメラを電車にいっせいに向けて最後の電車を撮り続けていた。
上り電車が林の向こうから姿を現し鈴なりの乗客を乗せて到着した。
明彦の電車は山中駅を出ると上り勾配に差し掛かり鉄道に沿って流れている川幅も狭くなり渓谷と変わって行った。原沢を過ぎてトンネルを二つくぐり、川久保と無人駅にも今日が最後の運転とあって電車が近づくといっせいにカメラのフラッシュの攻撃が待ち構えていた。トンネルをくぐって鉄橋を渡ると左の車窓に見えていた渓谷が右側に変わってしばらく10分も走るとそこはやまと鉄道の過疎の町やまと追分駅だった。

人口8千人のこの町は主に林業で成り立っていた。
狭い車両からどっと人が吐き出されて改札口へと流れていく
明彦もまた、切符を出して駅舎から出て後戻りして小さな車庫に向かった
やまと鉄道の小さな車庫の前には黒山のような人だかりだった。
カメラを持った鉄道ファンを中心に地元の人たちが電車の周りを囲んでいた。
明彦ももう50年近く走り続けている赤いレトロな小さな電車を撮影しようとバッグからカメラを取り出し大きな望遠レンズを取り付けた。

やまと鉄道の制服を来た職員がやってきて電車を取り囲んでいる皆に説明しはじめた。
「皆さん、こんにちは、ようこそやまと鉄道にお出でくださいました。長い間皆様にご愛顧いただいた鉄道線浜南―やまと追分間21,3キロは本日を持ちまして廃止されることになりました」
明彦は、大勢の見物客とともに職員の挨拶を聞いてたが、明彦のほうに目を向けた瞬間、 明彦は思わず
「あっ」
と叫んだ。

それもそのはず何と中学時代の親友だったからである。
明彦は思わず見物客の人並みを掻き分けて前に出た。
挨拶をし終えた彼も明彦の顔を見て、
「おお、鶴見じゃないか」、
「井田しばらくだなあ」二人は駆け寄って思わず握手をした。
明彦は
「君に逢いたかったよ、いったいどこ行ってたんだ。?」
「ごめん、ごめん、僕もどうしているかと気になってたんだ」
脇の職員に
「この電車の説明僕に代わってやってくれないか」
と頼んだ。

明彦は、
「いいのか、君が説明しないでも」
「大丈夫、こんなとこで逢おうとはなあ」
「いったいどこに雲隠れしてたんだよ」
「君には本当に済まなかったと思ってるよ。実は?」
「どうなったんだ」
「実は、親父のやってた工場が不況で不渡り出して倒産して・・・・」
「そうだったのか、あの頃、君の家は羽振りがよくて僕はうらやましく思ったんだけど」
「それで借金取りは来るわで、叔父が浜南市に住んでて、こっちに来たんだ。」
「そういうわけだったのか、大変だったなあ」
明彦は複雑な事情で友人が急にいなくなったことがわかった。
「そういうわけで高校出て地元の工業大学何とか出て、やまと鉄道に入ったという訳」
「やまと鉄道って言えば、鉄道のほかに県内のバス・百貨店・スーパー・コンビ二・不動産までやってていいじゃないか」
「地元ではまあまあだけど君は?」

「僕は平凡だよ、サラリーマンで、今日はやまと鉄道が最後の運転をするというんで新幹線でここまで来たんだ。写真撮ろうと思って」
「今日はすごい見物客だなあ」
「いつもこんなだとな、鉄道廃線しなくてもなあ」
と鶴見はためいきをつきながら言った。

「それじゃ、僕から説明しようか」
と鶴見は車庫のすぐ側に陳列されているレトロな5つ窓の電車を指差しながら
「これはモハ10という形式で中部鉄道で、名古屋の岐阜を走っていたのを払い下げてもらった大正5年製造の一番古い電車なんだ」
「知ってる。何度か岐阜で乗ったけど、こいつが岐阜の市内の道路を走るときにはのろのろと左右に車体を揺らせて駅まで走ったよ」
「これは大正時代の古典的価値があって円形の窓が特徴あるんだよ。」
と鶴見が言うのを聞いてて
、明彦は、
「君もずいぶん詳しくなったなあ」
と言った。

鶴見は
「まあ、やまと鉄道に入ってからなあ、商売柄しょうがないよ」
と鶴見は、
「僕、鉄道部長なんだ」
と明彦に名詞を見せて笑った。
「この車両もうちが鉄道廃止になったらもう全国でも見られないんじゃないか」
と鶴見は電車を見上げながら言った。
「ところで、君の仕事の鉄道部が終わったら」
「今度は、やまと百貨店入りだよ」
 「いいじゃないか、百貨店なら地方で有名だし」
「わが社の電車はほら阪神地方を走っていた加速・減速の早いジェットカーか、これの屋根に冷房装置を取り付けて、やっとわが社にも冷房電車が走って皆に喜んでもらったと思ったら、3年で廃止だもんな」
と鶴見はしみじみと話した。

「記念に写真撮るか」
と明彦は、バッグからカメラを取り出し三脚を引き伸ばしてカメラを三脚に固定した。
明彦は、セルフタイマーを押して急いで鶴見の立っているところに戻り肩を組んで写真に納まった。
明彦は、鶴見に案内されて10系古典電車と右側の15メートルの短い車両と一番左に止まっているやま鉄ご自慢の1000系の冷房電車を見て廻った。
明彦は、要所要所で電車をカメラに収めた。

「うちの事務所に来るか。あげたいものがあるんだ」
鶴見は明彦の方に手を掛けて、
「さあ、行くか」
と言って駅に向かって歩きだした。
「ここがうちのやまと追分事務所だ。」
と鶴見は言って、観光案内センターの3階の建物脇の自販機にお金を入れて缶コーヒーを二つ買って2階に通じる狭い階段を登った。
「悪いなあ、仕事中に」
「狭いけどそこに座って」
鶴見はソファーに明彦を座らせて、左の壁のロッカーを開けてなにやら取り出した。
「これは、当社の鉄道の開業50周年を記念して作った写真集で」
「ええと電車の文鎮どこだっけなあ」
とロッカーの中を探した。

若い社員が、
「部長、ここの箱の中に・・・・・でも結構皆に配ったし」
狭い事務所の左の隅にある机の引き出しを捜した。
「部長、これでしょう」
と言ってほこりを被った金属の塊を取り出して、ほこりを払って鶴見に差し出した。
「こんなもので良かったら、さっき見た10系電車の文鎮だ」
缶コーヒーを開けて鶴見の前に置いた。
「悪いなあ大切にするよ、これもらっていいの?」
「ああ」

明彦にとっては何にもましてかけがいのない物だった。
「ところで、君はさっきサラリーマンだって言ってたが、電車の好きな君のことだから」
井田は興味深く鶴見の返事を待っていた。
「ああ、僕のこと、大したことじゃないが武蔵鉄道なんだよ」
「大したもんだなあ、武蔵鉄道は電車も大きくVVVF方式の新車だしな」
「うちは、つり掛け方式で、いや走ってもうるさいしな」
「つりかけ方式は貴重だよ、もう全国でも貴重だよ」
「いや、君のところは、規模が違うもんな、安全なATC方式だから、事故も起きにくいし」
「ああ」
「でも併行して多摩鉄道も走っているし、結構大変だよ」
そんな話をしているうちに、秋の日差しも影って来て山並みが赤く染まっていた。
「そろそろ、今日の終電車の運転時間も迫ってきたしなあ、飯食いに行くとするか」
二人は事務所の階段を下りて駅前の道路を左折して歩いた。

鶴見は、
「ここのとろろは名物なんだ」と言って「丸子庵」
と書かれた看板を見て中に入った。
「済まない、こんなとこで、運転があるんで酒はちょっと」
と明彦の顔をすまなさそうな顔で言った。
「いいんだ、僕は酒は全然飲めないんだよ」
と明彦は言った。

明彦は、以前妻と一緒にここへ来たんだよと危うく口にしそうになって、ご馳走してくれる鶴見に申し訳ないと思って
「こんな自然の特産物なんて口にできなくて」
と感謝して言った。
二人の前にお櫃に入った麦ご飯ととろろ汁が運ばれてきた。
外は、すっかり夜の帳が下りていて遠くのやまと追分駅の周りだけがこうこうと灯りがついていて明るかった。

「ところで、君にお願いがあるんだけど」
「僕が住民数人から花束受けるところを新聞社のカメラマンが写真撮ることになってるんだけど、そんな形式的なものでなく、君は僕の親友としてもっと自由な角度で写真撮ってほしんだけど」
「はっ。僕に、新聞社でもなく、ここの住民でないのに」
「僕の親しい親友っていうことで。君の自由なというか、きっとあたたかい、僕にとってたった一回の想い出になると思うんだけど」
「OK、わかった。僕でよければ」

駅に入ると最終電車はホームに入っていた。
電車は、ホームにはみ出る長い5両編成でご自慢の冷房電車1000系に混じってさっき見た大正時代の古典的な5つ窓、丸窓の10系電車も連結していた。
明彦はすでに新聞社のカメラマンより遠い場所に陣取って待っていた。
制服姿の鶴見が構内の詰め所から歩いてきて、
「当社はじまって以来の5両編成だよ、まあ、ファンと住民サービスかなあ」と笑いながら明彦に言った。
「皆様、やまと鉄道を長い間ご利用くださいまして本当にありがとうございました。いよいよこの列車を持ちまして当駅の営業を終わらせていただきます。明日からはバスが運行いたしますので今後ともご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます」
とアナウンスを繰り返した。

ホームのやまと追分駅の赤い電車の周りにはこの時間でも鉄道ファン、住民で一杯だった。
町の有力者の挨拶のあと、終電車を運転する鶴見に花束を送った。その光景を見ていた明彦は鶴見の一番にこやかな瞬間を狙って、連写した。
鶴見は、明彦の顔を見つめて
「すまないなあ、君まで借り出して」
と小さな声で言った。

制服を着た鶴見はきりっと帽子の紐を締めなおして運転室に入った。
明彦は一番前の窓から井田の後ろ姿を見ていた。
ホームの中学校のブラスバンドが「線路は続くよどこまでも」を演奏しはじめた。鉄道ファンが群がってカメラのシャッターを押した。フラッシュを受けてまばゆかった。
出発のベルが鳴り終わると、鶴見は正面の信号が緑に変わったのを確認して「出発進行、定時、制限15と立て続けに指差歓呼しながらコントローラーを白手袋でノッチ2の位置まで操作した。
「ファーン。」とタイフォンを鳴らして電車はホームを離れはじめた。
電車はやまと追分駅の構内を離れると町の家の軒並みが明るいほか闇に包まれ電車の前照灯だけが線路の先を照らしていた。

鶴見は前を見つめて
「制限解除、信号よおし、速度50」
と言ってコントローラーのノッチ5一杯まで持って行った。
電車は甲高いモーター音を出して速度を増して走った。
明彦は、鶴見の電車を運転する姿を見てなにか不思議なめぐりあわせを感じながら、親友のあたたかさを感じ、今日の感動の出来事そのままに妻にどう伝えたらいいかと心の中で迷っていた。

用語解説
つり掛け式  モーターから車両に動力を伝達する(モーターを台車で装架する方式で構造は簡単であるもののモーター重量の五十パーセントが車軸に掛かり、さらに騒音が大きく乗り心地も良くなく既に過去の物となっている。

VVVF方式 
VVVFインバーターとは
直流を交流に変換、そこで電圧と周波数を変化させて交流モーターを制御する方式である
電気車両の動力に使うモーターは交流タイプの方が保守などの面で秀れている。
今までのような抵抗器を必要としないため、省エネルギー、低騒音化、高効率化が実現した。


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