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企業恋愛小説「ホテルの恋人たち」PC/ケータイ同時掲載(完)


作家のたまご



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東京台場にオープンするニッポン・セントラルホテル台場に研修生たちが集まり3組の恋人たちがホテルマンとして成長して行く話ですが、作者のホテル経験も含めて書いたものです。
今回第1話を掲載します。
どうぞよろしくお願いします。

作品に出てくるホテル・企業名・登場人物は存在しません。

あらすじ

東京の台場に新しく出現する巨大ホテルに採用された研修生たちが、ホテルの発展とともに成長していきながら、ホテルの中で繰り広げられる喜びと悲しみの華やかな三組の恋人の「ホテルの恋人たち」の物語です。
ホテル研修の初日、道路で奈央子が落としたケータイを洋一郎、拾って彼女を見るとなんと中学時代の初恋の人。

研修の昼休み、何気なく話した重信と麻美、二人の性格がまるっきり正反対のところが意気投合。
韓国人キム・ヨンイルはソウルで恋人だったリュ・イジンが突然行方不明、東京で一家が居ることがわかり、とうとう彼女と喜びの対面。

また、ホテルで働く人たちとホテル利用客との心温まる交流も物語として登場します。
純粋で愛のある3組のホテルマンの活躍する物語をどうぞお楽しみください

この小説を書くにあたって

この小説を書こうと思ったきっかけは過去ホテルの経験と仕事を参考にホテルで働く恋人たちを生き生きと描きたいと思ったにほかならない。
コンサルタントとしてのホテルの仕事と若干のホテル経験、実務経験に加えてさらに調査して書いたものであるが、あくまでも仮想「ホテル」ということでこの物語はホテル及びストーリーに登場する諸施設は実在しないことを最初にお断りしておきたい。


この小説に登場する主な人物のプロフィール
深川 洋一郎(30)

一度は一流商社に入社したもの、人材バンクを通じてニッポン・セントラルホテル台場の幹部研修生として転職。
研修当日、時間に遅れて途中、道路の前を走っていた女性がケータイを落としてケータイを拾ってあげた。
その女性とは、洋一郎が片時も忘れられなかった高校時代の初恋の人と運命的な出会いをすることになる。

中野 奈央子(29)
女子大を卒業後、ニューヨークの大学に2年間留学したので、アメリカに多くの友達を持っている。
研修当日、時間に遅れてホテル研修会場に向かう途中、ケータイを落とし、洋一郎がケータイを拾い出会う。
奈央子には、アメリカ時代のマイケルという恋人がいるが、洋一郎を次第に愛するうちに二人の恋人というジレンマに陥り、次第に罪の意識のジレンマに立たされる。

長瀬 徹(45)
ニッポン・セントラルホテル台場の総支配人
温厚で誠実であるが、ホテルはお客様に満足して頂くためのあらゆるサービスと安全を心がけ支配人自身が火災などの危機に立ち向かう。

長谷川 重信(25) 
スポーツが好きで、明徳大学ではサッカー部に籍を置き、全日本大学サッカー試合で優勝したこともある。
二人の姉妹の言うことをよく聞くので、二人からよく甘味喫茶など女性しか行かない店に連れて行かれる。
おしるこやあんみつ、和菓子を食べると、二人の姉妹から、重ちゃん、かわいいなどとよく言われる。。
性格は何事も楽観的に考えていて、恋人麻美とはいつもやりあっている。
 
井上 麻美(23)
独立心旺盛で関西の女子短大卒業後、単身アメリカ、カリフォルニアのあるホテル経営学校に2年間留学。
麻美の父は、地元旅館組合理事長を兼任しているため、顔が広く早く、地方の有名な観光地の温泉旅館の一人娘。父がこの旅館を早く引き継いでほしいと願っているが、麻美はホテル経営に興味を抱きアメリカ、ロスアンゼルスの大学ホテル経営学科に入学、性格は勝気、負けず嫌いな反面、人をすぐ好きになる。

キム・カンイル(26)
韓国、ソウル出身、ホテル研修生で外国人採用の一人。 
日本に興味を示しているが、とても礼儀正しく、目上の人をものすごく尊敬している。高校時代の恋人、リュ・イジンが突然行方
不明になってあるとき在日朝鮮人の親戚にいることが分かり、日本興味があることもありホテル研修生となる。
ホテルの仕事に精進する一方、恋人リュ・イジンの行くえを調べている。
ある日、リュ・イジンがこのホテルのレストランで働いていることを知り15年ぶりに感激の再会を果たした。

リュ・イジン(27) 
キム・ヨンイルとはソウルの大学付属高校生と一緒でキム・ヨンイルは彼女をとても愛している。
事情があって誘拐されそうになるが一家は在日韓国人の親戚を頼って日本で一家は生活することになる。
彼女はキム・カンイルに会いたいと思ったが、思いがけず彼と再会することになる。

岡田 麻里亜(28)
深川洋一郎の姪、神戸に住んでいるが、国際航空に入社、パーサーとなるが、語学能力を買われて、ロンドン支店に勤務となる。
久しぶりに一週間だけ日本に帰ってきて洋一郎と会うことになるが、ある日洋一郎が麻里亜と会っているのを奈央子が目撃してこれが誤解となる。
後に誤解が解けて、洋一郎、奈央子、麻美とともに楽しい時を過ごすことになる。

朝比奈 梨花(36)
客室支配人として、研修生の教育訓練を担当する。
高校卒業後、国際的な名門ホテルに就職、実力派。
セントラルホテル発足に伴いスカウトされた。
フロント接客、顧客対応について、研修生を厳しく訓練するところからいつしか鬼の梨花支配人と呼ばれるが、本当は暖かい人情を持っている。

片倉 優子(38)
メインテナンスマネージャーとしてホテルの高校卒業後、メインテナンス会社、ホテルの経験を経てセントラルホテルにスカウトされる。


この小説はドラマシナリオ「ホテルの恋人たち」全13話を小説化したものです。


第一話 恋人たちの出会い

東京ベイを飛ぶ一機のヘリコプターがあった。ヘリコプターの陰が地上に小さくできてそれが上空から見ると道路、建物と影が移動して行く。
ヘリコプターの窓を通じて春霞がたなびいていて遠くは富士山といいたいところだけど

今日は見えず、新宿を中心に左が渋谷、右が池袋のグレーの超高層ビルの塊、手前に六本木、霞ヶ関、後楽園スタジアム、そして手前が品川・芝浦・汐留・銀座と要所要所にビルがつくしのように伸びている。
「OK,これから下降します」

ヘリコプターを操縦している荒木機長がそういって操縦かんを倒した。
爆音を奏でながらヘリコプターは下降して行くに連れて台場を走る東京湾岸道路・マンションホテル。SC群の建物がはっきりと見えて、ゆりかもめモノレールは台場を曲がりくねってその先が蛇のようにくねくねと伸びている。

ニッポン・シティコアホテル全景、中央にセントラルホテル、隣接してSC ELINA、スポーツクラブなどの複数の建物が見える。
建物には祝東京台場に本格的シティーホテル誕生、21世紀にふさわしい複合ホテルのアドバルーンが見えてくる

東洋新聞の記者はカメラを構えて今日の夕刊に間に合うように写真を撮っている。
「よおし、この辺で一枚」
そういいながら5~6枚の写真を立て続けに撮った。
 


春の朝、モノレールの中、朝9時、春霞のたなびく春の朝、中野奈央子はブルーコート、首にはピンクのバラ模様のきれいなスカーフ。春の陽光が車窓いっぱいに差し込んできて居眠りするにはちょうどいい。
奈央子は時々左の隣に座っている濃紺の縦じまスーツを着ている中年の男性に体が傾きそうになる。はっと目がさめて急いで自分の姿勢を直し、
「どうもすいません」
「いいえ」
というもののまた体が傾きそうになる。
「どうもすいません」
「いいえ」
そんな奈央子は、目がさめて駅の表示板を見てあわてて立ち上がった。
「いけない、降ります」
急いでドア側に近づいたがドアは閉まる。

「どじだなあ、あたしは」
小さな声でいったが後の祭り、流れるように過ぎて行く国際会議場前の掲示板をうらめしそうに眺めていた。
次の青海までがえらく長く感じられた。
窓越しに倉庫・事務所などどんどん流れていく景色を見て無意識に地団太を踏んでいた。

青海、電車が滑り込んだとたんドアが開くと向かい側の汐留行きに滑り込むようにして乗った。と同時にドアは閉まり母に就職祝いと言って買ってもらったプラダの赤いバッグの紐あドアとドアの間に挟まってしまった。
一生懸命バッグの紐を引っ張りながら留め金から紐が外れたらどうしようと心配だった。何とか取れて小声で
「ママに買ってもらった赤いバッグ、怒られちゃう」

国際センター駅に戻り、奈央子はダッシュ、ダッシュと自分に言い聞かせながらエスカレーターを降り、ホテルへ通じるプラタナスの街路樹の道路を全速力で走っていくことになった。

その時ケータイがなった。
ユッコからだった
「もしもし、奈央子、あのさ、今日暇だったらデパート行かない?。春のドレスが30%引きですって」
奈央子は「それってあとの話にして、今あたし、ごめんね、ユッコ」
ユッコは奈央子の高校時代の友達でもう結婚して3歳の子持ちの母になっている。

働きたいらしく、時々
「あの、私、仕事したいんだけど、相談に乗ってくれない」
と時々電話をしてくるのだが、相談に乗る奈央子はまだ独身で生活のために働かざるを得ないのだ。

そういう友人ゆえに、奈央子も時々知人、親戚の叔父に会ったりして
「あの、ハケンだけどさあ、私の叔父のところで」
と話しても
「私、ハケンでないところが」
と女子の就職難なのに
「よくいうよ」と思ったりもした。

でも、翌日になると奈央子は
「ユッコの就職も考えないと」
と手帳を見ながら悩んでいる。
奈央子の手帳には自分のことよりも、近所、友人、今まで勤めていた会社の同僚から相談されたことを手帳に書いては悩んでしまう、責任感、潔癖さがある。

同じ頃、もう一人電車でうたたねして居る男がいた。
東京臨海線国際センター前で降りた一人の男、洋一郎はエスカレーターを二段飛びして猛烈な勢いで駆け上がっていた。
洋一郎は
「いけねえ、遅刻しそう、いつも人生大切なときに遅れたりして」
駅入り口から外に出て同じポプラ並木の道路を走っていく。

実は、家族がホテルに就職したことを喜んで、昨日は駆けつけた親戚の叔父、いとこも加わって盛大に門出を祝ってくれたのだった。

奈央子のケータイが再びなった
ごめん、ユッコかな、違っても今はそれどころじゃないと心の中で謝りながら
ケータイを取り上げたとたん、ぽろっと落としてしまった。
「ああ、私のケータイ」
奈央子が赤いケータイを拾おうとかがんで右手を伸ばした瞬間、
「これ大事なんでしょう」
先に拾ってくれた男が居た。

奈央子は、
「ああ、すいません。ケータイ落とすなんて」
洋一郎は、奈央子の顔を見た。
「あっ」
彼女は中学時代の僕の初恋の人?まさか」
「なにか」
「いいえ、何でもありません」
洋一郎は驚きを隠しえず 
「ど・・・どこまでいらっしゃるのですか?」
「実はあたし、この先の」
「僕も実は、そうなんですか」
「急いでいるのでごめんなさい、ケータイのお礼したいのでここが電話です、すいません」
「そんなあたりまえのことを」
奈央子は名詞を渡し、駆けて行く

奈央子は、ニッポン・セントラルホテル台場研修生会場と大きく掲げられている掲示幕を見て
立ち止まり、超高層ホテルを見上げながら
「ようし、頑張るぞ」
とほほをたたき気合といって自動回転ドアから1階ロビーに入った。
天井から下へ1階はギリシャ彫刻の柱、ステンドグラスに陽が映える、らせん階段
壁面に噴水、シースルー・エレベーターなど、立ち止まってしばし眺める。

「すご~い」
思わず驚嘆の声を上げた。
その時、息を弾ませながら洋一郎が飛び込んでいた。肩で息をしながら奈央子が立っているのに気が付いて後ろから、
「おや、さっきあなたとお会いしましたね」
奈央子は振り向いて
「あっ、さっきの方、今日はこのホテルの」
「ああ、よかった、あなたと二人なら、実は僕も同じホテルで」
「私も、今朝寝坊して遅刻して一人ならどうしようかと思って、怒られても二人で分け合えるし」

実際そうなのだ、
企業研修で、自由な学生から企業の組織にいきなり組み込まれて、皆が最初は大事と送れず集まっているのに初日から遅刻してしまう大胆さと肩身のせまさが同居している。
「研修会場この8階ですね。エレベーターで行きましょう」
二人は通りの前のシースルーエレベーターに駆け寄ってボタンを気ぜわしく押した。
エレベーターの中で、
「さきほどはご親切に、中野奈央子です」
「深川 洋一郎です」
とはじめて名前を名乗りあった。

8階降りると研修会場に着く。
洋一郎、奈央子は少しうつむいて受付係りの方へ行く。

総務受付が机の名簿を見ながら「お名前は?」
「深川洋一郎です」
「中野奈央子と申します」
受付担当者は
「左側ドアよりお入りください。ホテルは24時間営業でお客様のサービスに当たりますので今日のところはよいですが、明日から遅刻されないようにしてください。」
担当者、研修マニュアルとネームプレートを二人に渡す。

二人とも気まずそうにドアを開けて中へ入る。その瞬間、皆の冷たい視線を浴びた。
二人は皆の視線を見ないようにうつむいて階段の一番高い椅子にそっと腰を下ろした。
「~でありますから、今日ここに15人の優秀な当ホテルの未来を担当の方々をお迎えすることは私共ホテルの大きな喜びとするところです。
まさに21世紀のホテルにふさわしく国際化時代の幕開けでもあります。

日本のホテル業界として外国の方にも門戸解放をいたしましてアメリカ2名、イギリス1名、ロシア1名、マレーシア1名、韓国1名、計5名の新進気鋭の国際人をお迎えし、当ホテルが広く国際的にも飛躍発展したいと考えております」
と型どおりの挨拶だったがシテーホテルに日本人のほかに各国外国人を積極的に採用していることに驚いたりもした。

研修センター・の建設会社のコンサルタントがホテルの全容を説明した。
「これから新しくオープンする東京台場セントラルホテルは・・・・・・・・」

建設会社企画コンサルタントの説明、スライドパネルでポイント説明でわかりやすい
パネルNO1.から次々に画面変わる 
東京都中央区台場1丁目、再開発用地
基本コンセプト
泊まる、安らぐ・・・・・・・・ニッポン・セントラルホテル台場
鍛える、見る・・・・・・・・・併設スポーツクラブ
選ぶ、楽しむ・・・・・・・・・SC SERIENA

パネルNO2
特色ある施設、360度シネスクリーン ワンダフルとうきょう
       東京、横浜周辺の迫力ある光景(日本ではじめて)
       常設館
パネルNO3
階層構成
32F展望ラウンジ
31F客室
8F 客室
7F 大・中宴会場、
6F 結婚式場、フォト・スタジオ、フラワー・ショップ キッズルーム
   貸衣装、理容室、美容室
5F 中・小宴会場・兼会議室、
4Fレストラン、コーヒー・ショップ、ミーティング・ルーム、クリニック
3Fショップ部門、
2F ショップ部門 
1F吹き抜けロビー、フロント、ガイドセンター、銀行、郵便局 ビジネス・
  センター、
B1駐車場
B2駐車場、 機械室、 カラオケ、地下BAR
ホテル部門  総室数 800室
ロイヤル・スイートルーム、スイート・ルーム、ツインルーム、シングル・ルーム。
各室、インターネット、液晶多目的TV、冷蔵庫、BGM、
FM装置、空調装置、電話、バス、洗面所、
大宴会場 800人収容、小宴会場、会議室、控え室
結婚式場、フォートスタジオ、美容室、理容室
郵便局、両替交換所、コンビニ店、案内所、フラワーショップ、バー、レストラン。
ショッピングアーケード。
パネルNO4
付属施設   SC SERIENA 120店入店
       食品、ドラッグ・ストアー、婦人・紳士雑貨、ファッション、インナー、
併設スポーツクラブ、ジム、プール、エアロビックス・スタディオ、サウナ、
テニスコート、ゴルフ練習場、室内スカッシュetc
体験360度シアター 東京はじめ各地の360度映像(日本初の施設)

パネルNO5  開発による相乗効果
台場周辺の住宅開発による定住人口の確保
住民の利便性の増大
 ホテル利用者、定住者の健康促進
周辺ホテルとの協力、国内、海外宿泊客需要に対応
ベイエリア全体の経済効果      
わかりやすいパネル説明に研修生たち、静かに聴きいっている。

二時間近くのホテルの社長から始まって専務・常務など、役員がホテルの未来像を一人ひとりが熱弁をふるって新入研修社員を鼓舞したが、初日だけに会社側と社員のそれを受け止める温度差はあった。
時計が12時を過ぎて、ホテル至急の昼食のお弁当は豪華だった。

皆、黙々と弁当を食べて一時間の休息時間をすごそうと大きく背筋を伸ばしたり、あくびをしていたが、一人、二人出て行った。
32階ラウンジでは 春霞の東京湾を航行しる船舶がかすんで見えていた。。

展望塔の柵にもたれている二人のカップルが出来上がりそうだった。
積極的で明るくて、しかしさびしがり屋の直美がお隣の男性に声を掛けた。
「あなたも同じ研修生つてわけ」
直美、重信から話しかけられ、重信の方を向く
「えっそうだよ、ところであなたは」
「あっ俺、なんとなく」
「ずいぶん心細い話。この大きなホテルに目的もなく入って」
「昔からすごい楽天的なんだ、何とかなると。君は」
「あら、もう12時半過ぎたよ。じゃ簡単にいうね」
「うん」
「家は関西、うちは旅館なの」
「何、関西?」
「温泉がどんどん少なくなってホテルに変わっているの。だから、将来ホテルにしようと思って」
「そうなんだ」

「あなたははそれで家出したんだ?」
「家出ってちょっと。父にあたしホテルを勉強してホテルに入って、将来経営者になればホテルだって旅館だって宿泊業には変わりないでしょう?。・・・って言ってやったの」
「お前は話の筋が通っているんだからとも」
「それで?」
「地元の短期大学出たあと、アメリカのホテルの経営学を専攻、留学したの」

「そうか、ずいぶん努力家なんだなあ」
「そうよ、何でも努力しないと幸せは勝ち取れない、これが私の考えなの」
と聞いてこの女性、俺には手に負えない勝気な子だと思った。
「俺はサッカーの選手やってた。学校で。二人のanegoがいて姉二人にデパートとか、喫茶店につき合わされたりして」
といいながら両手でボウルを持つような振りする。

「あなた、外見て男っぽくサッカー選手なんて格好いいけどさ、今話聞いているとそれじゃ二人のお姉さんに玩具にされてんじゃないの」
「そうなんだ、」
麻美は重信の話を聞いて思わず吹き出し
「それじゃ、あなたちょっと気の毒みたい」
「そうなんだ、だんだんお酒が飲めなくなってきて、困るんだな、チームの皆と飲むときに」
「あたしんちはぜんぜん逆よ、・・・父がお酒が好きで影響受けちゃったの」

麻美は重信ベンチに腰掛けて向き合いながら
「君んちとぼくんちはまるっきり正反対なんだ」
「あなたんちとあたしんちを足して2で割るといいかもね」
「・・・・・・。」
「ところで重信さんはホテルでなにをやりたいの」
「俺、俺はフロントでも料飲部門でも、営業でも身体を動かしてい仕事につきたいと思うよ。一日机に座って仕事をする、総務とか経理はごめんだ。数字がまるきり弱くて」

たしかに重信は中学時代からサッカー部に所属して大会、全国高校大会、そして大学の六大学サッカー部で最近までボールを転がしていたのだった。
そんな重信が何よりも体が動かせる営業を希望しているのも当然のことである。
「あたしは料飲レストランでもいいわ。何しろお給料いただいて日本、東洋。西洋料理まで覚えられたらいいよ。でも企画とか経理とかの事務でもいいわ」
「なんだかあたしとあなたと仲のよいお友達になれそうね。まるっきり正反対なのがいいのかも」

麻美のこの提案に自分とはまるっきり違う、そう思って
「そうだな、友達として付き合おうよ」
「あらためてっと、あたし井上麻美よろしくね」
「僕は、長谷川重信っていうんだ、よろしく」
二人とも立ち上がって、長谷川重信、手を麻美に差し伸べる。麻美、微笑して手を差し伸べ握手を交わした。

重信が
「ちょっと待って、この手をそのままでええと」
手のひらにサインして
「サインしたからこれを持っていよう。」
 と言って、サインのまねをして君も、重信手を滑らせて
「なに、これでいいの」
麻美も重信の手の平にサインのまねをした。
「じいってコピー」
「コピーしたからもう大丈夫だ」
「なるほど、コピーね、あなたって面白い人なのね」

8階研修会場ではホテルから支給された豪華弁当を奈央子と洋一郎は食べていた。
鯛の塩焼き、たまご巻き、神戸牛の一口ステーキ、野菜の煮物、キムチ漬け、フルーツサラダと研修生のために栄養価値豊かなホテルならではの気配りだった。
食べ終わり残り少ない30分を奈央子が「よかったら32階の喫茶室でお茶しません?」と
呼びかけた。
「うーん、そうしようか」

二人は立ち上がり誰もいない研修室のドアを開けて海の見えるエレベーターで32階へ
上がった。

32階のレストラン「パシフィックオーシャン」では
「洋一郎さーん、窓際に座ろうよ、船の見えるところがいいわ」
二人は、窓際に座る
「・・・・・」
「・・・・・」
「洋一郎さん、あなたは何でこのホテルを?」
まず、このことを聞きたかった。
「僕は一流商社辞めてこのホテルに入ったんだ」
「はっ、なんで、辞めるなんてもったいない」
「誰もそういうね。」
洋一郎は落ち着いている。

「そうなの、それで?。」
「ところが配属されたのは国内石油部で、まあ部長と中近東に二回出張したりしてよかったんだけど」
「部長さんと中近東2回もいけるなんて、もったいない」
「それ以来、毎朝国内石油の需給調査でコンピューターで会議のための日報、月間統計表づくりなんだ」
「ずいぶん地味な仕事なのね。」
洋一郎、そのときを回想するように奈央子に話しはじめた。

回想
「あれはそうそう、僕は呼ばれて部長の脇のソファで向かい合って座ったんだ」
部長から
「実は、今年わが社は創立120周年を迎えるんだけど、それを永遠に残そうということで社史を出そうということになって社長室所属で社史編纂室を設けることになったんだ」
といって一枚の辞令を手にして僕に見せたんだ」

「そうなの、それで」
「それで室長として適任者を探していたんだが、君に白羽の矢が立って」
「この僕がですか?」
「まあ、この際会社全体の仕事を知るのには絶好の機会だし」
「部長、お言葉ですが、僕はまだ会社に入って間もないですし、その僕が先輩を差し置いて室長になることは無理です
それに海外に出かけて現地で折衝し 日本に石油を輸入、安定供給を図るこの仕事をやりたいと入社しました」

部長が、一生懸命になって一生懸命話すのを見ながら
「君の熱意もわかるけど、君の今後のことは充分考えるし、決して悪いようにしないからここは呑んでくれないか」
といわれてさ。
「そんな時、断れないの、だって」
「そう、行かないんだ、自分で決めることはできないんだ、まあ、組織の中では」 
洋一郎は、部長席から自分の室に帰る途中に
「お気の毒ね、社史編纂室なんて」
「彼、部長にでも何でもはっきり言いすぎるし」
「あいつ空気よめねえし、俺は部長に」
小声で部長が席をはずしていないのをいいことに皆がささやいているのを目撃していたたまれがない気持ちになった。室全体が冷ややかな空気が流れる。

洋一郎は、われに帰り
「ごめん、中野さん」
「商社って難しいのね、華やかな感じだけど」
「それでもっと人と人とのつながりを求めてホテルに転職したわけ」   

奈央子は、華やかな誰もが憧れる商社でも難しい組織と人間関係があるものだなあと思った。
奈央子の場合はせっかく身に着けた語学を生かしたいという単純な理由だったけど男性は一生をゆだねる会社に期待して入社するのに転職のきっかけにもなる組織と人間関係の複雑性を改めて認識した。                            
奈央子は右腕の時計を眺めて
「あら、もう時間、ところであたしのケータイ拾ってくれた大切な人にお礼しなくちゃ、それにあたしの話も夜聞いてね」
「お礼なんていいよ、ほかの人でも拾ってあげたよ」
奈央子は洋一郎の冷たい反応に
「ああ、そうそりゃそうだけど、あたし想い出のケータイ拾ってくれた人っていってるのに」   
「ごめん、怒らしたかな」
少し機嫌が悪くなるが、思い直して、
「いいわ、許したげる」
「・・・・・・・・。」

「あなたからの借りはきちんと返さないと気がすまない性分ないの」
「借りはいつでもいいよ、そんなに気を遣わないように」
「そうそうあたしの知っているところでお食事して、ケーキ食べて、ピアノ演奏聴きながら楽しむたりしたところあるの」
「君がそんなに言うなら借りを返してもらおうか」
「あなたが、私が落としたケータイ拾って呉れなければ・・・
改めてお礼いうわ。あのケータイ、私にとっては想い出の・・・」
と言葉が詰まった。

そういって奈央子の顔を見る。心の中で高校時代の初恋の人に似ている。

洋一郎は、われに帰り
「ごめん、中野さん」
「商社って難しいのね、華やかな感じだけど」
「それでもっと人と人とのつながりを求めてホテルに転職したわけ」
奈央子の場合はね、せっかく学んだ語学を生かしたいという単純な理由で退社したのだけれど、彼の場合は大企業、商社に憧れてきっと就職して語学を自由に操って石油の輸入、開発に力をいれたかっただろうと話を聞いて、一見商社という華やかな舞台で組織と人間関係が機能していて個人の自由は制約されるのだということを受け止めていた。

再び展望台で
展望台ではさびしそうにしているキム・カンイルがいた。彼はソウル高校時代に付き合っていたリュウ・イジンがいた。
奈美が近づいてさびしそうにしている韓国のキム・ヨンイルに
「キムさんもいっしょに撮りましょうよ、」
と絵里奈が見かねて誘った。
太一が
「おーいっ、写真撮るぞ」
「いっしょに撮りましょうよ」
「こっち来ないか」
富士夫が「じゃいい、はいチーズも古いし、1+1はにっつこれも
古いし、キムさん、韓国ではこういうときに何てうぃうんだ。」
   
「韓国じゃ1・2・3のこと、ハナ・トウ・セッツていうんだ」
「OK,それできまり、国際親善で。」
「ハナ・トウー・セッ」
皆いい笑顔でパチリ、写真を撮り終えるとキム・ヨンイルまたさびしそうな顔に戻る。
傍の絵理奈心配そうに彼に尋ねる。
「ねえ、聞いてもいい?あなた一人でさびそうだけど何か心配事でもあるの」

「絵理奈さん、僕のことを気遣ってくださってありがとうカムサハムニダ。実はソウルの高校時代の初恋の人がいなくなって、その後日本に来てることがわかったんです」
「ああ、そうなの?。ここは日本だからきっとその人に会えるよ、元気だしなさい」
キムは絵里奈に励まされて
「カムサハムニダ、どうもありがとうございます。」
と丁寧に頭を下げた。

午後の講習を明日に回して、これから皆様をこのホテルの各部門に案内してホテルの機能と働きを実感していただきますと述べた。
地下2階 保守管理センター、厨房・料理部門・フロント部門・ハウスメンテナンス部門
付帯施設部門を見て回ります。

これは総務部長の粋な計らいだった。
明日から始まるホテル部門の講習に備えて午後を実際のホテルの中の各部門を見て実際のホテル運用を理解してもらうことにより研修生の意欲を高めることにあったのだ

30人の研修生たちは地下を降りてセキュリテイーセンターに通じる薄暗い通路を歩いた。
目の前に広いセキュリティー・センターが現れる。
中では係員が忙しそうにホテル各階、拠点に設置している監視カメラの映像をチェックしている者、電気・水・ガスなど示されている回線、など動力源の数値を見ている者、各室の冷暖房状況のチェックなど、実に多様な仕事が組み合わされてはじめてお客様にホスピタリテーなサービスをチェックできるということを研修生は感じたようだ。

案内役の総務部長が
「ホテルの場合、収益は電気・ガス・水等の資源の管理によって大いに影響を受ける業種だけにECO管理にまたお客様の目に触れない部分は電気を節減しています。さらに最近犯罪・事件の多発があり、お客様の安全に最も力を入れていて火災事故の際の緊急措置、防火扉、非常の際の脱出、2001年のテロ事行為件以来迅速に対処できるシステムが出来ています」
「最近は、皆様の安全といのちを守るための対策を・・・・・」
と熱を帯びてきて説明をする。

「ええ、ここでは、ボイラー管理者・エレベーター保守点検・電気工事資格者などが活躍する部門で皆さんもこのような資格を取って置かれることをお勧めします」
といったので、研修生の中から
「石川、お前、ボイラー1級管理の資格持ってるから早速どうだ」
「こんなところでお前言うなよ、俺の秘密を、これじゃわかってしまうじゃないか」
二人の話で皆わらってしまった。
固い空気がなごやかになって総務部長も笑っている。

ホテルを利用する人々もほとんど認識していない縁の下の存在なのだと説明を奈央子も
洋一郎も大きくうなづいて聞いていた。
「私たち、華やかなフロントとか宴会・会議室、結婚式・披露宴を見てホテルは華やかと思ってたけど」
「そう、一日中地下で人の目にも触れず、ここで働く人は作業服で時には油にまみれている、生命・安全のために24時間頑張っていることを覚えておかないとね」
洋一郎もうなづいてそういった。

よく見ると研修生の菅原が涙をためていた。
隣にいた奈央子は
「あなた、何で、泣いてるの」
「僕、実は親父があるホテルの保安員なんです、父はホテルに勤めていてホテルというものはお客様の心を掴むものだ、しっかり頑張れ」
と励ました時、
「お父さんなんて保安員だろう、恥ずかしくて、お父さんはもっとレストランとかフロントになりたくなかったの」
と語気を強めて喧嘩になってしまったことを告げた。
「何もホテルのことわからなくて、ごめん」
といった。

次はホテル後方の調理・厨房部門を見てまいります。
ホテル従業員が出・退勤のたびに通る通路の左に調理室・厨房部門があった。

「大淵調理長おじゃまします」
「今日は、ああ、研修生の・・・ご苦労さん、説明したいとこだけど大きな宴会と結婚式披露宴が入っていて」
「かまわずにやってください」
「おおい、302号室の宴会の鯛は」
「100人分確保できたのですが10人が」
「わかった、10人分確保しろ、大至急だ、まだ二時間ある」
調理場のなべからときどき真っ赤な火が高く立ち上る
「中華、焦がすなよ」
「ステーキ焼けたか、40人分」
「遅いぞ、もっと早くしろよ」

総務部長が調理しているコックに邪魔にならないように
「ここでは、お客様の予約を受けた料理を和・中華・
西洋・東洋といっても最近はエスニックな韓国・台湾・タイ・はてはベトナム料理と多様化するお客様のニーズに合わせて時間までに迅速に調理する技術が求められています」
「うまそうだなあ、ああ、腹減った」
すぐ側のトレーのさらに盛られていた大きな丸ごと鯉の中華揚げ煮のにおいに引き寄せられたのか研修生の大石がいい、
「皆さん、どうもすいません」
と頭を下げた

「調理・厨房部門では料理だけではありません、食品管理面で冷凍技術・材料仕入れ管理・衛生管理などがホテルにとって何よりもは大切なもので食品一つ一つの原価管理、一円が何よりも大切です」
「なるほどね」
「さらに、食品の中毒事件です、いったんホテルでそんなこと起こしたらホテルの信用は失墜します」

「総務部長、そのためには仕入れ業者の交渉も大切ですね」
研修生の一人が質問した。
「その通りです、仕入れ業者は数社を選定して業者間による競争入札をすることが大切です。業者を固定してそことばかり付き合うとリベートとか、よく新聞で話題になりますが」
と料理長に代わって総務部長の説明も熱を帯びてきている。

では、皆様憧れのフロント部門ですと総務部長は大きな貨物用エレベーターで皆を誘導し1階のロビーに向かった。

まだ2時半過ぎだというのにひっきりなしに電話が掛かってきて5人のフロント担当員は両手に電話を持って片方はあごで抑えてお客の応対をしている。
フロントテーブルの下にはコンピューターが設置されているらしく予約状況を見てはすばやくキータッチで情報を入力している。

「伺っております、石井さまでいらっしゃいますね
5時にご到着お待ちしています」
「はい、シングルルーム二部屋ですね、はい、おとりしておきます」
「お客様502号室のお客様はただいまお出かけです。
ご用件お伺いしておきましょう」
「ディズニーランド直行バスは・・・・・・」など
担当者が機敏に応対している間にもお客がフロントを訪ねてくる。

フロント担当者が皆の前にやってきて
「主任の堀 博です。ここでの業務を簡単に説明いたしましょう」
「ここでは、お客様の予約・当日客、個人・団体客の受付、館内の案内、客室への宿泊客の取次ぎ、料金清算などがあって迅速な時には非常時など急病人の発生、救急車の連絡、さらに浴室、水漏れ、空調設備の不調など、とにかくあらゆるクレーム発生の応対など
機敏さと寛容さが要求されます。
また当ホテルは外国人利用客も多いので英語のほかにほかに一カ国後ぐらい話せるようにして置いてください」

「キムさん、韓国語が役に立つわね」
うらやましそうに絵里子がキムにいった。
一通り説明が終わったとき、洋一郎が質問がありますと手を上げた。
「あの、フロントをやっていて一番苦労することってなんですか」

「なんといっても客室管理業務ですね。ホテルはお客様が到着する6時ごろには満室近くなっているように心がけています。そのためにVIP・常連客・固定客・フリー一元客何人ぐらいかあらかじめ予測していつも利用いただく常連客はあらかじめお部屋を取ってフリーの方は端の部屋から埋めてゆきます」
フロント主任の話を聞いて
「フロンとってかっこいい服来て一番目立ってあこがれていたのに本当は大変な仕事だと洋一郎、奈央子も否皆そう思っているに違いない。
皆は大きくうなづいていた。

「大変なんですね」
「またお客様の中には性格が違いすぎて口論に発展する方もおられますので別の階のお部屋をお取りするとかして、とにかく表通りから見た客室全部が部屋割りの上手下手によって大きく影響しますね。まあ外から見てあのホテルはいつも繁盛しているなあと思っていただくことが大切です」
「そうですか、こんな細かいとこまで」

フロントが終わるとらせん階段をゆっくり上がりながらテナントのあるコーナーを見てそれからエスカレーターで4階の結婚式、宴会場に行った。
400人収容の大宴会場はおりしも今晩の予定で忙しかった。
今晩はこの円形テーブルがお客様でいっぱいになります。
宴会・会議。披露宴で大切なことはそれぞれのお客様のご予算と開催時間に合わせてお料理をお出しすることです。バランスを取ってちょうど終了前に最後のデザートをとか結構気を使います。
後ろでそっと見守りながら、時々お客様のもとに近づいて「お料理の味いかがですか」とか「ワインいかがですか」とかそれとなくおもてなしすることも大切です。

セットの際のテーブルは食器、フォーク、スプーンなどの種類とかワインの種類を暗記できるまでに覚えることが必要です」
そういう話を聞いてホテルは人に注目して華やかで男女の出逢いがあってと考えていた研修生たちの表情も真剣になっていた。

そのほか、ホテルの中枢機能であるビジネスセンターでは、巨大コンピューターが稼動していて経営意思決定を行う予算管理・各部門業績管理・予約管理・部品管理・原価管理・販売管理などがいつでも把握でき、さらにお客様のメール。コピーを受け付けたり、場合によっては伝言を取り次いだりしていることも知り、いかにホテルとはどの部門も連携しあってすべてはホテルを利用するお客様のために快適なサービスを提供していることを研修生たちは認識させられた。

見学は三時間に及び研修生たちはやや疲れた表情で8階会議室に帰ってきた。
最後の一時間は明日からの講習ということで、
麻美を突っついて小声で
「ほら、未来のホテルの経営者になるんだろう、たりして」
あたしって昼からずっと見学してていて、もし寝たら明日あなたのノート見せてもらうかも」

麻美は何とかして目を覚まそうとしているけど、肘を突いたままいつの間にかこくりこくりと居眠りをする。時間が経ち、眠気が襲うのを我慢しながら
「俺って女の子にやさしい人なんだなあ」
「えーとノート書かなくちゃいけないわ」
麻美は時々はっと気がついて講義をノートに記すものの手からペンを落として居眠りをしていた。

新宿駅西口は仕事を終えて、自宅へ急ぐ人の波、遊びに行く人の波が交差していた。
今日一日ぎっしりとホテルの研修があって研修生も軽い疲れを感じていた。
奈央子と洋一郎二人もそうだった。
「この先の角の超高層ビルの45階があたしたちのいくところなの。」
いくて前方にグレーの超高層ビルがそびえていた。

二人は新宿超高層ビルのシースルーエレベーターで45階スカイタワーに昇った。
昇るにつれて目の前の道路を行きかう自動車の赤いライト、建物が次第に小さく周辺いっぱいに光が広がって二人はじっと東京の街の果てしないきらめきの広がりを実感する。

新宿タワービル45階最上階。
室内も高級感があり赤いじゅうたんの先にはクリスタルルームがあった。
BGMは、中央から聞こえてくるピアノ曲「白い恋人たち」で室のムードがいやおうなしに高まっている。
「いらっしゃいませ、何名さまで・・・・」
奈央子はハンドバックから会員カードを取り出している。

係員は「お席にご案内いたします。2名さまですね」
といって先に立って二人をエスコートした。
「へえっ、すげえところだな」
「いちばん眺めのいいところにご案内します」
 
スカイラウンジ内は、天井は星空、下は黒いじゅうたん、間接照明で大きな窓から新宿の夜景が一望できる。中央にピアノがあって白いフォーマルドレスを着た女性がピアノを弾いている。

「一寸いいでしょう。だからここで借りを返すといったの」
「それに妙に酔っ払った男の人もいないでしょう。女の子同伴でないとここには入れないのよ。」
「君が借りを返すと言ったところは、ここか、君と今後付き合っていくのは重荷だよ」
「ねえここいいでしょう。女性専用の会員クラブになっているから」
「こんなところで借りを返されたら、僕身が持たないよ。ここはよく来るの」
「とんでもない、滅多に来ないわよ、でもあたしにとって大切だと思う方だけとここに来るよ」
洋一郎は(思わず) 「えっ、僕ってそんなに大切な人?」と聞く

奈央子が
「そう、あたしにとっては想いでのケータイ拾って呉れたんだから」
「えっ、君の想い出というのが気になるの」
「それは秘密、その内わかるかもよ」

奈央子からそういわれると個人の秘密だし、
洋一郎はそれ以上聞けなかった。
「ここは大学時代の親しい友達と来ることあるわ、夜景見てあっきれいとかいってるわ。あと」
「あとって」
「父を連れてきたの」
「お父さんと?。」
洋一郎は、娘がこんなところに連れてくるとは場違いでないかと考えていた。

「そうしたら、父は俺は江戸っ子だってんだ。お前は俺がやっているお金をこんなところで使っているのかと怒られたわ。」
「江戸っ子って何やっているの?」
「下町で団扇とか扇子作っているの」
「そうなんだ」

洋一郎ははじめて父の話を聞いて、彼女の父が江戸古来の伝統を今も引き継いで扇子やうちわを今でも作り続けていることを知ってない子の父にけ一種の尊敬の念まで感じ始めていた。
でも、奈央子さんはそんな古風の伝統を引き継いでいる女性には見えないしとも考えてみた。
「第一、ピアノでなんか西洋の音楽やったりして、やはり俺には演歌かなんかとかこんなとこで言うもんだから、あたし恥ずかしくて」

当時を思い出すかのように、奈央子一寸肩をすぼめて、恥ずかしいようなそぶりを示す
「扇子職人だと無理だろうな」
「ちょっとあなた失礼ね」奈央子は
(一瞬むっとするが抑えて)
「あたし、もう少し父が、センスがよければいいと思うのだけど」
「扇子にセンスね、すごい。」
「何よ、あなた何いっているのからかわないで、偶然いっただけよ」
とポイと横をふりむいた。
洋一郎は
「ごめん、はじめて会ったのに怒らせて」
「謝っても聞かないわ」

「あの、実は僕、奈央子さんからお父さんが扇と扇子を作ってる江戸職人といった時、僕はもうそんな伝統的な仕事を今でも引き継いでおられて素晴らしいと思ったんだ」
「何よ、あなたはけなしたり、ほめたり」
でも、奈央子の顔からは穏やかな笑顔に戻っていた。

それにしても君は何ていうか才能があるっていうか、扇子とセンスを重ねるなんて」
「変なところで感心しないでよ」
といいながら「お食事しましょうっていってもここは軽い食事で、ピザ、カレー、スパゲッティ、ピラフ位で女の子の負担を軽くしてるの、それに?」
「それにって」
「私たち、友達とか来てここでおしゃべりするでしょう、男の人とその点違うの、あと、甘いデザートが多いの」
「あたし、ピザにするけど、あなた好きなもの、何でも」
「奈央子さんの選んだものをいただくよ」

洋一郎と奈央子とピザ、野菜サラダを食べながら

「ねええ、ワインかカクテル飲みましょうよ。わたしはマンハッタン・・・・・・・・・、あなたは」
「僕、そうだなあじゃ、シンガポールリスニング」
「あなた、カクテル通なのね」
「いや、シンガポール行った時飲んで」
「恋人と行ったの、いいなあ」
「まさか、部長のお伴」
「お食事終わったらデザートたべましょう」
「そんなものあるの?」
「洋菓子のバイキングがあって何でも食べ放題なの」
「さすが女性殿堂なんだあ」
そう言って奈央子は指で
「ほら、あそこ」
といった。

和菓子から洋菓子、ケーキ、ゼリー、飲み物まで種類が豊富で若いカップル、女の子が周りを囲むように集まっている。
「ふうっつ、すげえ、驚いたな」
「ねえ、すごいでしょう?、お菓子店顔まけでしょう」
「だから女性は太るんだ」

奈央子と洋一郎は、
好みのデザートを盛ってテーブルにもどる
洋一郎「奈央子さんはさすがだなあ、」
イチゴタルト、メロンケーキ、それにシュークリーム、フルーツポンチ、を見て驚いた。
「あなたは?」
洋一郎のお皿には
ワインケーキ、バームクーヘン、タルトなどを選んで「あっさりしたものばかりね」    
「あれを見ただけで」
「あれを見ただけでって?」
「君がせっかく誘ってくれたのにごめんよ」
「さあ食べましょう、あたしケーキは別腹なの。」
洋一郎は、男も女もそう代わらないと思った。同じクラブでもビール・ウイスキー・日本酒・焼酎・酎ハイ・ワインといろいろ飲みながら酒の肴として選んで食べて飲むことには代わらないと思った。
同時にここは男一人で来るところでなく女性の殿堂とも思ったりした。

「なに、さっきから考えてるの」
洋一郎ははっとわれに帰って
「じゃ、僕も頂かせてもらいます。」
「どうぞ。」
「本当だ、このクリームの上品な甘さ、一寸ワインぽい味染み出てチョコレートと溶け合ってエレガントで引き付けられる。」
洋一郎は一口食べるたびに菓子の味を細かく話すので、
奈央子思わず噴出してしまった。
「あなたって面白い、急に料理評論家になったりして」


あたし、ホテルの仕事昔から憧れていたの、きれいなところでフロントとかかっこいい制服着てお客様の応対するのっていいなあといつも考えていたの。」
「それでいろいろ調べて2年間、経営学を学びたいと思いニューヨークの大学に留学したの」
「2年もアメリカに単身行くなんてすごい。」
「あなたはホテルの何を希望してるの?」
「僕もホテルといっても、料飲関係、客室関係、渉外関係いろいろあるのでひととおり経験したいよ。でもやっぱりフロントかな。語学も役に立つしね」
「意欲的なのね。」

「案外、君と一緒でフロント配属されそうな気がする」
「そのときはよろしくね。」
「でも、実際はお客様にサービスすることってあんなにいろいろなセクションが協力し合って、誰もが知らない苦労を重ねていることがよくわかった」
と洋一郎は改めて今日午後のホテル見学をした印象を奈央子にいった。

奈央子もまた、
「私も、なにかあんな巨大ホテルでかっこいいユニフォーム着て華やかなフロントでお客様の応対をして、中にはイケメンとか外国人に会えるし、結婚のチャンすもと、舞い上がっていた」
としみじみ洋一郎に思いを話すのだった。

「ところで君はどっかで見たような気がするんだけど。あの?」
「あのって何なの、言ってごらんなさい。早く、早く」
「君だって、大切にしているケータイの秘密教えて」
「それは、・・・・・そのうちわかる日が来ると思うわ」
「じゃ、僕だって秘密にしておこう」

二人はお互いの秘密は胸のうちに今は収めておくほうがいいと顔を見せてにっこり笑った
夜も更けて中央のピアノ曲、「イエスタデイ・ワンス・モア」、バラード曲に変わる。
ロマンチックムードに奈央子
「ねえ、洋一郎さん、あたしと踊らない?」
「えっ僕、それが情けないことに君と違って」
「いいのよあたしに付いて来てくだされば」

見ると、3組のカップルが踊っている。
奈央子の誘いに従って洋一郎もステップを踏んだ。側でピアノ曲が
同じビートルスの「イマジーン」に変わった。スローテンポでゆっくりと踊りやすい。
二人は今朝からの出来事を考えていた。
ケータイを取り上げたとたん、ぽろっと落としてしまった。

「ああ、私のケータイ」
奈央子が赤いケータイを拾おうとかがんで右手を伸ばした瞬間、
「これ大事なんでしょう」
先に拾ってくれた男が居た。
奈央子は、
「ああ、すいません。ケータイ落とすなんて」
洋一郎は、奈央子の顔を見た。
「あっ」
「なにか」
「いいえ、何でもありません」
「あなたお上手ね、踊れないと言ってたのに。」

学生時代からダンスが苦手で、友人を通じて会社の創立記念ダンスパーテーに誘われてエチケットとしても周りにいる男女とも「踊りませんか」と誘い合うものなのだが、洋一郎は遠慮をして踊れない男女がいる、いわゆる壁の花だった。
奈央子からそう言われて
「何か、僕今夜すごい幸せ」
と彼女の耳元でささやいた。

同じ頃、ホテルのもう一つのカップルが居た。
新宿駅西口駅はこれから夜を楽しむため、遊びに行く人、仕事が終わり家路に急ぐ人が交錯して賑わいを見せていた。
二人のホテルで今日、知り合った重信・麻美もその中を歩いていた。
「君の家、どこなの?」
「家?、家は新宿の山の手よ。割と近いところよ」
「良い所に住んで居るんだね」

新宿駅西口駅はこれから夜を楽しむため、遊びに行く人、仕事が終わり家路に急ぐ人が交錯して賑わいを見せていた。
二人のホテルで今日、知り合った重信・麻美もその中を歩いていた。
「君の家、どこなの?。」
「家?、家は新宿の山の手よ。割と近いところよ。」
「良い所に住んで居るんだね。」

重信に直美は関心を示し、いい友達になろうと言ったことを理由に
「ね、私たちお昼いい友達になろうねと言ったじない。少しだけ寄り道して行かない?」
「寄り道って」
「私、おいしい炉辺焼きの店知っているの。魚もおいしいしビールも少しだけ。どう?」

重信は、いきなりビールといわれて困惑の表情を見せた。昼休みにホテルの展望ラウンジで直美にお酒は苦手と話していたので、
「えっビールって言ったよね。君ってお酒は呑めるの」
「少しくらいはね。さっき話したでしょう?」
自分の育った環境とまったく違うと驚いて
「さっき話したようにだめなんだ俺」
とできら逃げたかったのだ。
麻美は話題をちょっと変えて
「一寸、聞いていい?」
「何?。」
「あなたって、恋人いるの?」

「僕サッカーで何度も優勝に導いているんだけど、体育会系なんて男の城なんだよね。女性と会う機会がないんだよ」
「そう、それじゃ仮にあたしがあなたの恋人としてあなたと一緒にお姉さまにあったらどうかしら、驚くかしら」
「そういう手もあるなあ、君に無理言って、一日恋人になってもらおうかな」
「・・・・・・・・・」
麻美は笑いながらそっとうなずく

麻美はそう話しながらビルを降りて行くと、にぎやかな歓声や笑い声がすでに二人を覆っている。
「炉辺焼酒場 あかり灯」
中はカジュアルっポイろばた焼きの店で正面にいろりがあって魚を焼く音とにおい、さらにたばこの煙と男の酒場ムードなのだが、音楽がスイスのヨーデル、仕切りがステンドグラスがはめてあって敬遠しそうな炉辺焼酒場が女の子も入れるようになっている。
「ええー、らっしゃい、何名さま」
「二人」
「お二人さん。こちらへどうぞ」
フランスの田舎の民族衣装を着た女性の店員が席に案内し、
「こちらへどうぞ」と案内する。

中央カウンターに座る重信と麻美の周りには会社帰りのビジネスマン、若いカップルでにぎわっている。
いろりばた焼きなのに洋風の内装が落ち着いていてここなら女の子も安心できる。
いか、ほっけ、いわし、さば、いわし、海老、ホタテなどの海産物が並べられていて見るからに食欲をそそる。

面白いのは焼いた魚介類をスペイン風・イタリア風・ギリシャ風に調理とかドレッシングを用意してあることだ。
「女の子に誘われて来るなんて、はじめてだ」
「この店、雰囲気いいでしょう?。炉辺焼きなんだけどここは洋風でカジュアルっぽいから女の子も入りやすいの。

新宿は超高層ビルをはじめ都心からこお副都心に移転してきた企業で勢いここで仕事をしている人を狙って大手チェーン店はじめ零細な炉辺焼き酒場が多く生存競争が激しく開店した店の裏には敗退、閉店に追い込まれた店があって生き残りが大変のだ。
それに魚介類も新鮮で地中海風とかフランス風とかにアレンジするの」

従業員がやってきて中央カウンターの近くの席に案内する。
「焼酎、地酒、にごり酒、酎ハイ、ビール、ウイスキー、わあたくさんあるなあ。見ただけで・・・・・・・。」
「本当にだめそうな顔してるみたいな」
「・・・・・・・。」
「なら、酎ハイはどう?。メロン、いちご、オレンジ、りんご、いろいろあるわ。ビールもあるし、少しくらいどう?」
「ビールは、日本製のほかに、ハイネケン、バドワイザー、それにタイガー、ほかにも」
「あたしは、ビール小ジョッキ、ビールはハイネケン、そのあとはメロンの酎ハイ、」
「じゃ、僕は小ビール、バドワイザーでいいよ」

麻美は、せっかく誘った炉辺焼き酒場でお酒、アルコール類がダメだといった重信に
気を遣って
「あとは、なにか食べないと、和洋取り混ぜいろいろあるわ、ええと
焼き鳥、肉豆腐、肉じゃが、ウインナー、マリネ、魚は地中海風ソテイあたりでどう」
「いいね、いいね」
やがて注文の品が運ばれてきて、麻美はメロン酎はいを飲み、重信もすすめられていちご
酎はいをたしなんでいた。

「あたしたちって本当に最初から出会いがあった見たい」
「あなたの家と俺の家が変わっているし」
「でも正反対って、案外うまく行くんですって」
「ところでアメリカのホテル学校役にたったの?」
「う~ん、日本とアメリカの風土、習慣の相違なのかなあ、日本の方がきめの細かいサービスやってるみたいな」 
「そうなんだ」
「っていうか、アメリカ人て国がめっちゃ大きいからあたし的には大雑把に見えるし」
麻美からアメリカのホテルの話を聞いてうなづいていた。

ところで
「そういう君が夕方の授業に居眠りしてた」
「たしかに、あそこんとこで何かアメリカで聞いた感じだったよ」
「道理でさっき居眠りしてたんだ」
「変なことに感心しないで?」
重信は麻美に親しみを感じて
「これから、、居眠り姫さまと呼ばせてください」
麻美はいきなり自分のことを居眠り姫と呼ばれて
「何なの、ああむかつく」
とまゆにしわを寄せた。
「でも君のために全部ノートとレコーダーに記録しておいた」
と言ってポケットから重信HDDレコーダーを取り出した。

「ほらね」
音を再生して麻美に聞かせた。講師の声と共にスースーという音が入り混じって聞こえてくる。
「何なの、このスースー言う音は?」
「これこそわが愛する居眠り姫さまの可愛いいびきさ。」
麻美、それを聞いて少し不機嫌に、
「あっそう、あなたもう、いい加減にして、いやだこんな証拠物件残して。たたくわよ」
重信「・・・・・・・・・」
重信「でも、あなたってずいぶん容易周到ね、内容録音してくれたので許してあげる」
「でも麻美さんは、すでにカリフォルニア学校出ているし、だから当分居眠り姫さまでいいよ。なに俺は君のために全部ノート、録音しておいてあげるし」
重信の皮肉めいた話に
「いやな性格、人をからかうって、でもさっき言ったとおり日本と外国のホテルサービスが違うの」
「・・・だから、私も居眠り姫ばかりではね」
「あなたは何するの?」
「あっつ俺コーラでいいよ」
「はt、こんなところで」
「本当に飲めないんだ」
「あなたって骨太でがっちりして、頼もしい存在にみえるけど、サッカーのOB会とか、コンパとかそういう時どうするの?」

「そのときは、一寸付き合って、あとはジュースで雰囲気もりあげるとか」
麻美が次第にエスカレートしてくるので、誘われた重信も心配になってきた。
彼女、いくら強くても家にかえれなくなってはいけない。

麻美は酎はいを重ねているうちに酔っ払ってきて
話がスローモーになって行く。
「変な~人ね、あ、あなたに~話すけど、ね聞いて、あたしねえカリフォルニアのホテルの~~ホテルの経営学部に居て~~、あなたよりもっと素敵な男の子が居てえ、・・・・・すきだったんだけど振られちゃうのよね。麻美、アイ・ラブ・ユーとか言ってさ、なのによう、ある日彼は、僕の婚約者ですってえ~~~、思い出しっちゃった。今夜悲しい・・・わ。わかる~~、重信さあんこの気持ち。」
重信はすっかり酔ってきている麻美を見て頃合を考える。重信、酔ってる麻美を見て可哀想になるがどうしていいか戸惑ってしまった。

「麻美、家まで送るから、もう帰ろう」
「あたし~悲しくなった~~~」
とハンカチを目に当てて涙をふいている。
「麻美さん、続きはこんどにして帰ろうよ」

とうとう重信、足元がよろけようとする麻美を肩で受け止めてお勘定を支払い、一歩ずつ階段を上がり道路に出た。
「麻美さん、大丈夫?」
「大丈夫よ、これくらいのことでえ~~」
麻美だいぶ酔っている
炉辺焼き酒場から出てきたサラリーマンが手をあげてタクシーを止めている。一台のタクシーが交通渋滞で止まっているのを見て、重信は麻美を背負って駆け寄って合図をした。

ドアを開けて麻美を先に中に入れて、自分も乗り込んだ。
麻美から住所を聞き、
重信「中野1-23番地」
タクシー走り去る。
タクシーの中が走り出して麻美は酔いが醒めてきた。
「重信さん、あなたにこんなにご迷惑掛けてごめんなさい」
と言ってハンドバッグからお金を取り出して重信のスーツのポケットに入れた。

十時を過ぎて青梅街道から横丁を入ると人通りも少なくなって街路灯がぼんやりと通りを照らしている。山の手住宅街の黒塀のある家から玄関を開けて男が出てきた。
「麻美の兄です、今日は妹がお世話になりました」。
「こんばんは、長谷川重信といいます」
兄が
「麻美、重信さんによくお礼を言って、ここまで送ってくださったのだから。」

麻美は兄に寄りかかりながら
「あたしが彼をお誘いしてあたしが酔って、今夜はすっかりご迷惑おかけしてどうも本当にすいません。」
重信は、、麻美を送り届けて地下鉄駅に向かう途中。
「今日は、変な日だったなあ。麻美からお酒誘われて、俺が彼女を家まで送るなんて。麻美明日来れるかなあ」

新宿地下街は十時を過ぎるとビルの店舗もシャッターを下ろして駅までの地下通路が異常に長く感じられる。駅に近いある洋品雑貨コーナーはまだ店を広げていた。
奈央子は、目を留めて
「洋一郎さんにあそこの黄色いネクタイ買ってあげる。」

「奈央子さんの元カレはネクタイ、何色が」
「はっ」
「なんとなく聞きたくて」
「まだ、今日逢って、そんな仲じゃないし」
「だよね、また怒らせて、ダメだな僕は」
「私が黄色が好きだから、大事なケータイ拾ってくれたし、やっぱり恩人だし」
「じゃ、僕はあそこの店の黄色いスカーフ、今日二回も怒らせて」
「これ高いんでしょう?」
「頼む、黙って受け取って。」
「ありがとう、ありがたくいただくわ。そうそう明日二人でこれをして来ること、いいわね。?。」

二人、手を振って分かれようとするが、
「あっ、そうそう君のメールアドレス教えてよ。」
「いいでしょう、あなたストーカーじゃなさそうだし」
「えっ、僕が、奈央子さんだって平気でいうね」
「ごめん、怒らせて」

奈央子は、目を留めて
「洋一郎さんにあそこの黄色いネクタイ買ってあげる。」
「奈央子さんの元カレはネクタイ、何色が」
「はっ」
「なんとなく聞きたくて」
「まだ、今日逢って、そんな仲じゃないし」
「だよね、また怒らせて、ダメだな僕は」
「私が黄色が好きだから、大事なケータイ拾ってくれたし、やっぱり恩人だし」
「じゃ、僕はあそこの店の黄色いスカーフ、今日二回も怒らせて」

「これ高いんでしょう?」
「頼む、黙って受け取って。」
「ありがとう、ありがたくいただくわ。そうそう明日二人でこれをして来ること、いいわね。?。」

二人、手を振って分かれようとしたが、
「あっ、そうそう君のメールアドレス教えてよ。」
「いいでしょう、あなたストーカーじゃなさそうだし」
「えっ、僕が、奈央子さんだって平気でいうね」
「ごめん、怒らせて」
時々お互いがぶっつけあっているのだが、もう遠慮もなく話せることに奈央子も洋一郎も今朝あったのに心が打ち解けて話が出来ることを喜んでいた。

翌朝空は快晴で、風はまだ冷たいが、それはさわやかに陽の光はきらきらまぶしくさわや青々とした街路樹、モノレールの窓から見る小公園、マンションの前にはさくらが開花して研修生たちにエールを送っているようだ。


ニッポン・セントラル・ホテル台場のロビーにはすでに研修生が集まっている。
洋一郎は、今日は絶対遅刻できないと今日は早めに着いていた。
洋一郎「ところで奈央子さんは、僕が上げたスカーフしてくるだろうか」
昨日、新宿地下街でお互い黄色いスカーフ、黄色いネクタイをして出勤しようといったもののあうまでは不安だった。
「いかん、こんなこと考えるなんて、彼女がもう僕の心を占めている」
ホテルのドアから紫色のワンピース、赤い大きなベルトがアクセサリーの。
彼女が入ってきたが洋一郎は気が付かなかった。、
奈央子は小走りで洋一郎のところへ行き、

「お早う」
後ろから静かに洋一郎に近づいて後ろで目隠しをした、
「どう驚いた?。じゃ~ん、ほらあなたの呉れた黄色いスカーフ・・・・・・・・・・・・・・。
あら、あなたもね。」

洋一郎と奈央子は並んでエレベーターに乗って研修室に・・・・・
一方、ホテルフロントの前の黒いレザー貼りのソファに腰かけている麻美は、
バッグからファッション雑誌取り出し半分顔を隠している。
「ああ、重信さんにあんな迷惑掛けて、どうしよう、恥ずかしい」

重信が回転ドアを開けて滝のある側のベンチで腰掛けて背中を見せている麻美に
「お早う、麻美さん、昨晩はどうも。」
「あああたし、あなたに大変な迷惑を掛けて本当にごめんなさい」
「いいんだよ、君と楽しい時間っ過ごせたし。君との友好関係深まったし」

重信に言われて一緒にエレベーターで研修センターに向かうシースルーエレベーターで研修室に向かった。
麻美は、昨日の失態を見られてしまったことで重信の顔を見れず、雑誌で半分顔を隠し、ていた。
「本当に昨日は済みませんでした。あたし恥ずかしくて、もう二度と飲みません、ごめんなさい」
「いいんだよ、ちっとも気にしていないんだから」

それをドアの影からひそかに見ている者がいた。
キム・カンイルだった。
「僕の大切なリュ・イジンは日本のどこに居るのだろう、中野さんに深川さん、それと長谷川さんと麻美さん、あの仲のよさは恋人だよ、リュ。イジンどこに居るんだ、今ここにいれば僕たち三組目の恋人が出来るんだけど」
小声でつぶやいていた。

                  第一話 完

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長編純愛小説「愛は時を越えて」PB・ケータイ同時掲載版

作家のたまご


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  目  次
1  旅立ち

2  ギャレーの仲間たち

3  運命の出逢い

4  揺れ動く心

5  亜理紗のつぐない

6  ホリデイ

7  再会

8  想い出

9  新人類の青春

10 回顧

11 5番街

12 白い観光馬車

13 フィナーレ

はじめに
「愛は時を越えて」は昨年7月文庫本として出版したものを原作の持ち味を生かしながらケータイ版に内容を新しく書いたものです。

平成7年秋、ビジネス・コンサルタントの裕彦は三十二歳、成田第二国際空港から仕事でニューヨークに向かうのですが、機内で初恋の幼馴染亜理紗はキャビンアテンダント・チーフパーサーとなっていて20年ぶりに運命の再会をニューヨークで果たします。二人は20年の長い年月を埋めるかのように積年の想いを伝えるのですが
美しい秋のニューヨークを背景に、二人の愛は美しく、切なく。またちょっと哀しく進んで行きます。

第一章   旅立ち

平成七年、長かった残暑も終わりを告げ、街を行きかう人々にも夏の疲労が消えて、落ちついた表情を見せていた。昨日の雨も上がり、限りなく青に近い秋の空を見つめながら、錦小路裕彦は、成田第二国際空港国際線出発ロビーに着いた。あるメーカーの北米販売網拡充のための予備調査を一任されて思わず身震いするような気持ちだった。思わず両手を拡げて背伸びして
「よおし、やるぞ」
と決意を固めた。出発までまだ二時間くらいあったので、ポケットからケータイを取り出した。

「錦小路ですが、ニューヨークに行ってきます」
部下の井上が出てきて、
「主任心配しないでください。まかせてください」
という声を聞いて安心した。電話のそばで
「誰なんだ、えっ錦小路君、僕に貸して」
せっかちな声がして。部長が出てきて、
「錦小路君、大変だろうがしっかり頼むよ。ユナイテッド・デリバリー社と契約するための調査だから、君を信頼しているよ」
裕彦は一切を任されていることを改めて感じた。
「部長安心してください、満足な結果得られる調査報告書持って帰りますから」
「身体には気をつけてな、じゃあ」

裕彦は三十歳を過ぎて今一番働き盛りを迎えようとしていた。同じ時期に入社した同期生はもうほとんどが結婚し家庭を持っている。裕彦の母はいつまでも独身でいることを心配し、いろいろ縁談を持ち込んできた。もちろん、いくつかお見合いをしたが、結局このお見合いはなかったことにしてください、本当にごめんなさいと断ったのだった。父は、裕彦に教育熱心だった。特に英語を厳しく教えてくれたが、それ以外の結婚については、裕彦が自分で決めることだとまったく干渉してこなかった。

そういう家庭環境に育った裕彦にはどうしても忘れることのできない想い出があった。
それは幼稚園で知り合った女の子と小学校時代までずっと一緒だった高梨亜理紗を忘れることができなかったのである。なぜなんだ、幼稚園の聖書劇で一緒に出た女の子を好きになってそれから小学校までずっと一緒に過ごしてきてもう二十年たっているのに忘れられないなんて。初恋の人ってこういうものだろうか。
いまだに独身で母に心配掛けて、
「ごめんね」
と謝った。

胸の中では、年齢も三十二歳と仕事を選ぶか、それとも皆と同じように結婚して家庭を持つかで悩んでいるのだった。
そんなことを思いめぐらしている裕彦の頭上に搭乗案内の声が降り注いだ。
「皆様にご搭乗便のご案内を申し上げます。オーシャン航空946便、ニューアーク国際空港へお出でのお客様は27便ゲートにお越しください」。
 27番ゲートを歩くと、その先には搭乗機と直接連絡できる。

同じ頃、出発前のオーシャン航空946便北米線フライトのチェックが行われチーフキャビンアテンダントの高梨亜理紗もそこにいた。プリブリーフィング(ブリーフィングの前段階)は空港会社内の極東航空のコンピューターの端末チェック、端末を使って搭乗便の乗客数、乗客インフォーメーション、機材、駐機場番号、などをチェックして同乗する十二人のキャビン、アテンダントたちの一連の確認なのだ。亜理紗は入社十年たっていた。

キャビンアテンダントの仕事は時間も不規則で搭乗客のサービスに満面の笑みを浮かべながら、襲ってくる時差との戦いにも耐えて、フライトを終えて空港から全身に疲れが出て制服のままでタクシーで帰宅することもままある。フライトを終えて会社を出て立派なマンションに戻り、鍵を開けて中に入るとソファ、テーブル、テレビ、本棚、衣装ケースとオランダから買ってきた西洋人形がさびしそうにしていて、壁には蛍光時計が時を刻んでいるほかはそこには誰もいない空虚な空間が横たわっていた。壁にもたれて制服も着替えずに身体を少し屈めて
「あたし三十二だよね。なにやってんだろう」

亜理紗には、幼稚園、小学校時代に、自分を好きになってくれた男の子、錦小路裕彦がいた。、あんなに小さいときの裕彦の初恋って、裕彦さんが私を好きなんだから。最初は軽い気持ちで、あたしを好きな男の子が居るのと友達に伝えていたのだが、次第に裕彦への思いが深まっていった。
もちろん、自分はキャビンアテンダントでこのまま仕事をして行く行くは客室部長になれないでもない。会社は実力主義を取り始めていたし彼女の仕事ぶりをみなが認めていた。亜理紗にはいろいろな人たちから縁談の話も沢山集まって。それらの話から何回かお見合いした。また同じ会社のクルー、木下機長からも
「僕と結婚してください」
という話もあった。しかし、亜理紗は最後には断ったのだった。自分を好きになってくれた人やお見合いをした人を断ったためにいつしか周囲も亜理紗はきっと仕事に生きる人と周囲に思わせるようになり、お見合いの話も途絶えたのだった。

「私がいけないんだ。いいお話もあったし、木下機長だって、私を愛してくれてるのに」
でも一方では、
「自分が本当に好きだという人に私の愛を差し出したい。どんなにお見合いのいい話があっても自分の心を閉ざして結婚することは自分にとって不幸になるし、相手の人を幸福にできない、そんな偽善的な気持ちで結婚はできない」
と考えていた。

幼い頃、亜理紗は父に連れられて飛行機に乗った。
雲海がかなたにそびえ真っ青な空を何時間も飛んだ時
亜理紗は、
隣の席で寝ている父を起こすように小さな手でゆすぶって
「ねえ、パパお空の下にはこの地図のように線はないよね、皆一つのお空の下の人は仲良くすればいいのにねえ」
父はそういわれて亜理紗はなんとすごいことを言うのだろうと思った。
「亜理紗のいうとおり皆仲良くしないといけないね」
父は亜理紗にほほを寄せるようにして
「いい子だねえ、亜理紗」といった。
そんな父との飛行機の出逢いからいつしかキャビンアテンダントになつて世界をこの目で見てと頑張ってきたのだった。

それで、アメリカの二年間の大学留学から帰国して極東航空に入社、企画開発室を経てキャビン・アテンダントになり、一年前にチーフパーサーに上り詰めたのだった。極東航空は後発会社だったが、高岡社長のお客様サービス主義を第一とし、現場でお客様に接するCA、クルーの会合に参加して乗客のサービス、意見をどんんどん取り入れて利用客も大幅に増加しつつあった。現場の社員を本社各部門に配置し、働きやすい職場だった。

それだけに、仕事に掛ける情熱はすさまじいものがあった。亜理紗と塔乗する新人アテンダントに対するOJT体験実習は、厳しくいつしかキャビンアテンダントたちから鬼の亜理紗といわれ、新人たちからは涙をこぼすほどで恐れられている。かってキャビン・アテンダントになりたての頃は先輩に叱られその辛さ、厳しさを知っているので早く一人前になってほしいという情熱があった。そんな仲間たちから恐れられている亜理紗にもさびしさを漂わせることがあった。もちろん、仕事に掛けては優秀で、新人の教育も徹底していて上司からも信頼されていて、チーフキャビンアテンダントまで上り詰めて生活面では何ひとつ不自由なことはなかった。

亜理紗はふとわれに帰り
「いけない、こんなセンチメンタルな気持ちになって私には大切なことがある。」
と一筋の涙を拭い気持ちを無理に切り替えた。オーシャン航空成田空港支店ではニューアーク946便の出発準備のために慌しかった。
化粧室でユニフォーム姿を鏡で見ながら
「ええと一にスマイル二にスマイルか」
がっつポーズを取って
「私はやるようしがんばるぞ」
とほほを両手でたたいて化粧室を出て行った。

長い通路を客室部に向かって歩く間、成田空港に乗り入れているさまざまな航空会社のCAの制服が趣向を凝らしていて多くは紺色の制服だが、中にはオレンジ・イエロー・レッド・スカイブルー・ブラウンなどに混じってアジア各国の民族衣装をモチーフにした制服を纏っているキャビンアテンダントたちも行き来していて亜理紗は国際的雰囲気を醸し出している光景が好きだった。

そんな亜理紗を通路の階段の柱に隠れていた一人の男が立っていた。
「亜理紗」
突然名前を呼ばれた亜理紗は、
「お、お父さん」
「立派だよ亜理紗」
父は紺色の輝く金ボタンの制服を見て言った。
「ありがとね、来てくれてたんだ」
亜理紗は、キャビンアテンダントとして家を出て生活することを長い間反対されていたので父の一言でやっと融和できたことがなによりもうれしかった

極東航空の客室部のドアを開けて、中に入ると秘書が、
「高梨さん、部長がお呼びです」
亜理紗は、部長が私を呼ぶなんていったい何なんだろうと思った。
亜理紗は、そう思って部長席に行った。
「部長、お呼びですか?、高梨ですが」
「おお、高梨君、ご苦労さま、今回、うちの新しいニューヨークツアーの企画開発のために今日のニューアーク946便で急遽ニューヨークまで飛んでもらうことにした。それでどうだろう伊東葉月、後藤いずみの新人にも経験してもらって」
「はっ、あの新人ですか?」
「たしかにあの二人は、個性が強いとか、自己中心主義とか、僕はあの二人育て方によっては立派なCAになると思うよ」
「部長、ほらこの頃の子ってこうだからこうしてねと言ってもわかってますとかどうしてですか?とか結構こっちの方で後輩に気使うんですよ」
チーフとしての自覚は持っていたが、最近研修を終えて入ってくる新人CA(キャビンアテンダントの略)は苦手と思っている。

「では、まず、私から、秋野さん、小西さんの順にお願いします。」、
「L1の高梨亜理紗と申します。四十三期生です。どうぞよろしくお願いいたします」
「L2の秋野絵里子といいます。四十八期生です。どうぞよろしくお願いいたします。国際線搭乗経験は三年目です」
亜理紗は
「はい、次ぎの方」
「L3の小西優子で四十七期生で」
「L4の山下はるかと申します。四十三期生で」
次々に自己紹介があって新人二人の番が巡って来る。              
「伊東葉月と申します。同じ五十五期生で国際線勤務は二回目です。、よろしくお願いします」
「後藤いずみといいます。同じ五十五期生で国際線搭乗はこれで二回目です。どうかよろしくお願いします」
では、次の方、
(次ぎって言ったけど、私しかいないじゃないか。そそっかしいなあ。)
そう思いながら、皆に伝えておかなければと思い、急にすまし顔を作り、
「ええと、みなさま、各自の受け持ちの非常ドアの確認をしてください。本日ファースト、エコノミーともほぼ満席です。お客様が何を求めているか、注意を払ってクレームが出ないように気をつけてください。ニューヨークまで約十二時間、長時間のフライトですので休息取って疲れないようにしてまいりましょう。

亜理紗は皆の顔を眺めながら新人二人にもわかるように丁寧に説明し頭を下げた。亜理紗はふと本多木綿子のことを考えていた。
今から、この間までは、キャビンアテンダントとして本多チーフパーサーの指図に従って言うことを聞いて、乗客サービスに対応していた。亜理紗は、乗客から頼まれたことを他の仕事をしていてついうっかり忘れたり、行動が遅く厳しくあなたは信用できないと乗客から怒られたとき、深くわびたあと、ギャレーの片隅で泣いていた。

そんな時、
「高梨さん、元気を出しなさい、どうしたの、私に話してごらんなさい」
といつも優しく亜理紗の話を聞いて、励ましたり、家に呼んだり、暖かく抱きしめてくれたり、時には食事に誘ってくれたりしてかけがえのない頼れる先輩だった。

そんな本多が、ある日、
「亜理紗、私、9月1日付で地上勤務になったの」
と一枚の辞令を見せた。
辞令には。
「オーシャン航空本社、企画開発部課長を命ず」
と書かれていた。
「本多チーフパーサー、おめでとうございます。けど、チーフが本社に行かれたら私は誰に相談したらいいかなあ」 
と少しか細い声で本多の顔を見つめた。

「しっかりしてよ、亜理紗、私の後任っていうか、立派なチーフパーサーよ。もう、あなたに教えることないし、これからも色々なれないこともあって戸惑うこともあるでしょうが、あなたなら大丈夫、頑張ってね」
そういわれてもう一年たった。今までは、何か起こっても本多チーフが責任を負ってくれて安心していられた、まるで風雨が強く、防波堤の中に居るように高波から自分を守ってくれるような本多の大きな存在を感じた。これからは、すべて私が六人のCAの前に立って機内の出来事に立ち向かわなければと覚悟しなければと思っていた

皆は納得して亜理紗の説明を聞いていた。なおも皆の指示、キャビン関係、緊急事態発生の対応などについて説明は続いていた。プリブリーフィングを終えて亜理紗は、乗客インフォーメーションを見て車椅子の客、UM(無添乗の子供)を見て
「二百九十七人プラスゼロかあ」
プリブリーフィングを終えるといつものように亜理紗は、駐機場に続く長い通路を六人のキャビン・アテンダントたちと歩いた。歩きながら
「もう十年目かあ」
とつぶやいた。

通路で同期の坂西鈴江が声を掛けてきた。
「亜理紗、しばらくね」
「鈴江、しばらくっ」
「お互いすれ違いだし、これからどこへ」
「946のフライトでニューヨークへ」
「うらやましい、私なんかソウル、バンコク、遠くてドバイ」
「仕事だからね」
「この間、あなた木村クルーと歩いていたでしょう、イマカレ、モトカレ」
「どちらでもないよ、私、一筋派だから」
「あの、初恋の人、会えるといいね」
「まさか」
こんなくだけた会話が出来る同期生って心が休まるなあ、ほんのつかのまだった。

駐機場には機体にグリーンでOALをデザイン化した1970年に就航した400人もの乗客が乗れる BOING747が大きな巨体を横たえていて銀翼がきらきら陽の光りに輝いていた。搭乗機を眺めながら世界の空に羽ばたこうとするこの瞬間が大好きだった。これだからキャビン・アテンダント辞められないんだわといつも大きな瞳で見上げていた。
(しかし、でもあたしは結婚願望でおいおい二重人格者かよ)
と心の中は複雑だった。

亜理紗は、オーシャン航空本社のある霞ヶ関の方向に向かって、
「本多チーフ、ああ違った、本多課長、見ていてください、私は頑張ります」
と言って
階段を上がり機内に入ると亜理紗は並んでいる五人のキャビンアテンダント一人ひとりに手を合わせて微笑みながら、
「さあ、頑張っていこうよ」
といつものようにエールの交換を行った。この仕事はなによりも皆と一緒にチームワークを形成することが大切と考えていた。

、続いて、平井機長、福島副操縦士のクルーが待っている室に入った。
「さあ、合同ブリーフィングを始めよう」
平井機長が言った。合同ブリーフィングとは、クルーとキャビン関係者のCAが緊急脱出時の対応、非常口の確認、到着地までの飛行ルートの説明、天候とか、キャビンアテンダントとして必要とされる説明を行うことなのだ。皆は、長身の平井機長の説明を聞いて、航路上の天気も安定していて、ジェット気流に乗れればニューヨークまでの時間も一時間ほど短縮されることを聞いて安心した。

代わって、亜理紗が、
「では、私たちのサービスプランについて簡単に説明します。離陸後二時間で最初のお夕食ミールサービスを行います。本日のお客様は、ファースト二十名、エコノミーが二百七十七名、トータルで二百九十七名様の予定です。あわせてお客さまの入国書類の配布、食前酒とドリンクサービスの用意を行います。なお、本日は、ベジタリアン(菜食主義者)のお客様が五名ほど居られます。ベジタリアン食は、万一に備え七名様分用意してありますが、間違わぬように充分注意してください。このほか免税商品販売も行いますのでそちらのほうもよろしくお願いします」
皆の顔を眺めながら新人二人にもわかるように丁寧に説明し頭を下げた。

搭乗客を迎えるためにキャビンアテンダントたちがやらなければならないことは非常に多かった。さあこれからが戦場だ、

亜理紗は
「機内の整備状況、サービス物品点検、飲み物とか、お食事の量の搭載、オーデオチェック、それにトイレの確認とか仕事、山ほどあるんで、このチェックリスト見てチェックしてちょうだい」
新人2名が入っているので、
「乗客搭乗まで少ししか時間がないの、協力してやりましょう。葉月さん、いずみさん、頑張ってねえ」
二人は
「はい」
と返事して、葉月はトイレと収納棚チェック、いずみはオーデオチェックに廻るのだった。

乗客の搭乗まで目前に控えていて十二人のキャビンアテンダントはトイレの水の流れ具合、客席のオーディオの確認、国内外の新聞の確認、テレビの状況、荷物収納棚一つ一つのチェックなどをこなさなければならず駆け巡って戦場のように混乱している。一方、ギャレーでも三食分の食材、食器、飲み物の量、免税商品の確認などを短時間で終えねばならず喧騒だった。
「いつも戦場になるし」
亜理紗は低い声でつぶやいた。
「お食事の数、ミート、フィッシュ、それぞれ、それと・・・・そうそうベジタリアン食も」
客席ではキャビンアテンダントたちの声が飛び交っていた。亜理紗はチェックリストを持ち由佳里の数えた結果を記入確認している。

亜理紗は時計を見つめながらハンドマイクを手のして
「乗客搭乗五分前です」
その瞬間、今まで喧騒だった機内がシーンとして元の静けさに戻った。いよいよ搭乗客を迎えるこの一瞬は亜理紗たちを緊張させた。三人のキャビンアテンダントとチーフパーサーは搭乗口に立ち搭乗客を迎えた。
「ウエルカム・トゥー・ボーデイング」、
「いらっしゃいませ」
「こんばんは、ようこそ」、
とことばこそさまざまだったがお客様を心から迎えることには代わりがなかった。

一方、コックピットでは、機長、副操縦士が最終点検を行い離陸準備を始めていた。
 羽田航空管制塔とファーイーストエアーラインの航空機の間で交信が始まっていた。機長が
「こちらは極東航空808便サンフランシスコ行きです」
「ジス・イズ・ファーイースト・エアー27、クリア・トウー・スタート・・・」
副操縦士が復唱して、
「ビフォーアー・スタート・チェックリスト」、
「エンジンスタート3」
「エンジンスタート4」

次々に動作確認をすると、エンジン音がひときわ高くなり、
「ナンバー4スタート、フルパワー」
最後に四つのエンジンが全開して離陸体制が完了するのだった。
一方、機内では、キャビンアテンダントも着席、やがて轟音とともにエンジン全開で滑走路を疾走、、轟音と共に離陸し大空に舞い上がった。やがて、シートベルトサインが消えてFALをデザインした七色のエプロンをそれぞれがまとってキャビンアテンダントたちは忙しそうに働き始めた。

第二章 ギャレーの仲間たち

ギャレーに十二人のキャビン・アテンダントは集まって、亜理紗はてきぱきと指示した。
「いいこと、キャビンアテンダントって看護師とか保安員とか、またある時には主婦とかやさしい恋人とかその場の判断で臨機応変に果たさなければならないの」
今回は新人二人のトレーニングもしなければならずやさしく説明した。

「それ国内線のときに聞きました」
葉月が冷たい反応を見せる。
「このことはむづかしいのよね、つまりお客様の要望って世界各国によって習慣、生活が多種多様だし」
「あたしたち国際線の時にも聞きました」
いずみも同じような態度なのだ。

「香織と優子はお客様のチェックをして呉れる?特に酔っ払ってる方とか具合の悪い方がいないか注意してね」
二人は微笑んで指で〇を作りオーケーと答えた。
「それと不審な動きをする人がいるかも注意して。気をつけて、それとなく見張って」
香織が、
「任せて先輩、あたしたち例えゴキブリ1匹でも逃がしはしません」
ギャレーに居た皆が笑いに包まれる。
「ゴキブリは、機内にはいないけど、その心構えでやって」

亜理紗は二人を送り出した。彼女は、免税品のカートを目の前にして、
「伊藤さん、後藤さん。今日はどちらも満席なの、それで・・・」
亜理紗は全部説明するのでなく仕事がわかってもらうようにいつも質問して新人の意識を高めるようにしていた。いずみが口を開いた。
「それでお客様のお買い物の際に、ドルだけでなく、ロシアだとルーブル、ドイツだとマルク、中国だと元とか・・」
葉月がすかさず
「貨幣のレートに気をつけろといってるみたいな」
「ピンポン」
亜理紗の声で二人は笑った。

自分に比べて五十五期生と言ったことを思い出して、急に歳をとったと思った。何やってんの、ここでひるむなんて
「言って置きますが、お金の換算にはくれぐれも気をつけてね。大変でしょうが」
ここは先輩らしさを見せなければと思った。
葉月が
「あのお、亜理紗先輩、私たち、キャビンアテンダントになってまだ直ぐだし、どうしてですか?、私たちにそんな難しいことを」
いずみも
「あたしもそう思います。なぜですか、貨幣レートの換算の・・・・もし間違えたら先輩責任取ってくれますか?」
(出たっ、やっぱり、どうしてですか、なぜですかが)

亜理紗は、
「あのねえ、言って置きますが、どんなことでも最初は難しいと思うの・・そんな・そんなこと言ってたらいつまでも仕事っておぼえられないわ」
いずみが
「わ、わかりました。先輩が責任持つならやってみます」
と、この場はもう逃れることができないと思ったようだ。亜理紗は新人の教育は厳しく叱るときには徹底的に叱ったが反面、和やかな親しみの雰囲気を醸し出すことは誰よりも優れていた。この二人問題意識があるようだし任せようと思った。機内では、キャビンアテンダントたちがいつも客席を廻って乗客の細かな要望に対処していた。

亜理紗は葉月といずみの様子をそっと眺めていたが
「お客様、免税品はいかがですか」
と声を掛けている二人を見て大丈夫そうねと微笑んでいた

裕彦は、側を通りかかったキャビンアテンダントに
「あの、ニューヨークタイムスありますか」
「お客様今直ぐお持ちしますので」
今度の出張はニューヨークなのでなによりも現地の情報を知っておきたいと思った。英語は際立ってできるほどではなかったが、父が熱心に学生時代教えてくれたので何とか新聞を読んで大筋を理解できるのだった。現地での会話も頑張ってやってきたのだった。

「お客さまおしぼりでございます」
キャビンアテンダントが熱いお絞りを一人ひとりに配って廻る。
亜理紗は皆に仕事を与えた後、ギャレーで 一息ついていた。乗客の様子を巡回していた香織と優子がギャレーに帰ってきた。香織が
「亜理紗助けて」
「はっ、助けてってなに」
「お客様50Dのお子さんが機嫌が悪くて泣いていてお母さんがなだめてるんですが困っておられるようなので」
「それで私がその子を泣き止ませるって言うわけ」

香織は、困った顔をして、
「私たち、お子さんなだめたのですが泣きやまず、亜理紗先輩なら不可能なことはありません」
「香織が私を信頼してくれるのはうれしいわ、だけど無理なことも」
「いいえ、先輩はこれまでもお客様の難問を解決されてきましたし」
「わかった、じゃ行って来る」
亜理紗は、部下や上司に頼まれると決していやとはいえなかった。隅の引き出しから折り紙を取り出してギャレーを出て行った。

50Cの通路側の母親が
「何を言ってもこの子が言うこと聞かなくていやがったりして困ってるんです」
「わかりました、お子様のお名前は」
「隆夫といいます」
「隆夫ちゃん、あのね、お姉ちゃんがこの折り紙でなにか作ってあげましょう」
嫌がってる隆夫が亜理紗の優しい顔を見て、急ににこにこして
「お姉ちゃん、じゃキリンさん折ってくれる、象さんでもいいよ」
「ごめんなさい、お姉ちゃんキリンさんわからないの、その代わり隆夫ちゃんに象さんを折ってあげるね」
亜理紗は隆夫の顔を見つめながら象を折り始めながら、はっとした。


「ありちゃん、僕、折れないよ」
「ひろちゃん、折ってあげるね、ええとこうして」
ふと、自分が幼稚園だったとき、裕彦に象を折っている姿が目に浮かんだ。象を折り終えると、亜理紗は、
「隆夫ちゃん、ほら、象さんが折れたでしょう」
「お姉ちゃん、どうもありがとう」
母親も軽く頭を下げた。
「本当にこの子のために、すみません」
亜理紗はこの時まさか、その裕彦と三十分後に運命の再会をするとは考えてもいなかった。

離陸して二時間、すでにオーシャン航空946便は太平洋上にあった。
乗客は壁の大スクリーンの映画を見ている者、席の前のスクリーンでゲームを行ってる者、あるいはイヤーホーンを耳にあて音楽を聴いている者と長旅を楽しんでいる中で
キャビンアテンダント山下はるかが聞いた。

「お客様お飲み物はいかがですか」
十二人のキャビンアテンダントはそれぞれファーストエコノミークラスと別れて休みなく乗客の機内サービスを行っていた。
「これからまだ十時間の旅か」

裕彦は、カップのコーヒーを飲み終えた時、
「コーヒーよろしいですか、お代わりしましょうか」
まだういういしい感じのはるかが話しかける。
「結構です」
裕彦は答えた。

「次のお客様にお飲み物を聞いてね」
新人に付き添ってる背の高いベテランキャビンアテンダントがいう。新人の機内の実習なのかなあ、裕彦は何気なく彼女の顔を見ると、胸のネームプレートには、OAL TAKANASI 高梨と記されている。
「あっ、似てる、亜理紗さんに」
 
裕彦は、驚きの声をあげようとしてあわてて口を抑えた。
「まさか、あの幼稚園の幼馴染で二十年間消息不明の亜理紗さんじゃないよ」
心の中でそう思う。その瞬間さっき配られた手に持っていたお絞りを床に落としてしまった。
彼女は同じように二十年間も頭の隅から離れない裕彦がこの国際線に乗ってるとは考えていなかった。裕彦に軽く会釈して次の座席でドリンクサービスをしてやがて裕彦の視界から消えた。

「まさか、彼女が乗ってるはずはないよ」
無理に考えを打ち消そうとした。
「だめだ、記憶から消えない、抹消しようとしても、だめ」
あたりの乗客に聞こえない小さな声でつぶやく。
「よおし、今度のレポートでも見ておくか」
そう思って頭上の収納棚を空けてアタッシュケースを取り出して書類を取り出す。北米販売網確立に伴う予備調査、大きな活字が目に飛び込んできたが、さっきの高梨 亜理紗のことばかりだった。

ありちゃん、僕折り紙できないよう
あたしが折ってあげるから貸してごらんなさい
忘れていた幼稚園での想い出がよみがえってきた。

「書類も頭に入らないし」
機内のエアコンはよく効いて裕彦の周りには冷気が漂っている。足の周りが冷えてきたことに気がついて
「そうだ、亜理紗さんにブランケットを持ってきてもらおう、そして聞いてみよう」
そう考えただけで心臓がぱくぱく鼓動しているのを感じた。裕彦は、ちょうど通りかかったキャビンアテンダントに
「済みません、エアコン効きすぎて、ブランケットを」
「済みません、今お持ちします」
と絵里子がいうのを遮るように、
「あのお、高梨亜理紗さんにお願いしたいのですが」
「お客様、高梨亜理紗ですか?」
「ええ、お願いします、友人なので、僕の名前は錦小路裕彦といいます」
「わかりました、その旨伝えます、少々お待ちくださいませ」

彼女が裕彦の伝言を持ってカートを引きながらキャビンに背中を見せて遠ざかって行く姿を見ながら彼女が現れたらなんと話したらいいだろうと心がときめいていた。

平静を装ったもののもう心臓の鼓動が音をたてて耳に聞こえるほどだった。まさか、人違いじゃないのか、でも錦小路っていう苗字は全国探してもほとんどなかった。二十年間、頭のどこかにあったあの裕彦さんがこの飛行機に乗っているなんて。信じられないと思った。

亜理紗はブランケットを取り出し
「行ってくる」
ブランケットを手に持って裕彦に届けに行った。客席17C、ここだわ、裕彦は書類に目を通している。亜理紗は身体を少し屈めて声を掛けた。
「お客様、ブランケット、お届けに参りました」
乗客は、
「どうもありがとう。少し空調強くって」
書類を見ていた裕彦は顔をあげ亜理紗をしげしげと眺めた。

「あっ」
亜理紗は小声で驚いた。幼かった頃の面影が顔ににじみ出ていて
「あ・・あなたは高梨亜理紗さんですね?。横浜の幼稚園時代で一緒だった、僕のこと覚えて・ニューヨークに仕事で行くところで」
そう裕彦から言われて驚いて声も出なかった。のどはからからに渇き思わず
「お、・・お客様、失礼ですが、人違いだと思います。どうも大変し・・失礼しました」
とやっとのことで答えて、丁寧に頭を下げてギャレーに消えた。

裕彦は亜理紗に人違いと言われてひどく落胆した。自分からキャビンアテンダントのコーナーに行って高梨亜理紗に話をしようかとも思った。でもそれは仕事中の彼女を困らせたり傷つけてもよくないと思った。目の前に二十年間想い続けてきた初恋の人とやっとめぐり逢ったのに、その想いは目前で崩れ落ちる思いだった。亜理紗が去ったあと、膝に置いていた書類に目を通しはじめたが、彼女のことだけ考えていた。まだニューヨーク迄、随分時間があるし、また機会があるだろうと考えても落ち着かなかった。ギャレーでは仲間が待っていた。亜理紗はどきどきする心臓を手で押さえながらギャレーに入った。

「ああ、驚いた」、
「お帰りなさい、で、どうなの」
「それが、ねえ、、ねえ、ねえ。もう」とまだ気持ちが落ち着かなかった。
絵里子が、
「何なんです。亜理紗先輩」
亜理紗はまだ驚きを隠しえずに
「か、彼、幼稚園、小学校のときからあたしを好きで。」
葉月が
「超すごいっつ」
絵里子がすかさず
「それでデートの約束したの?」
「う~んん、お客様なにか人違いではないかって・・・・」
絵里子は
「先輩って仕事はすごい出来るのに自分のこととなると弱いわね」
と亜理紗に言ってくる。

「亜理紗チーフ、どうしてそんなことを、最高のチャンスなのに」
「そうかもねえ、ああ、あたしって馬鹿じゃなかろうか」
絵里子が、
「私だったら」
「でも、今はフライト中だし、お客様に愛してるなんて言えないよ」

そこへ乗客の様子を見に行った香織と木綿子がギャレーに戻ってくる。
「何かあったんですか、亜理紗、なんだか元気ないし」
亜理紗は、この二人にもわかっちゃうのかなあ、香織とは一番親しいし知られたくないなあと心の中で考えていた。
亜理紗と香織は歳が二歳違いでいつも香織の相談に乗っていた。
「亜理紗、あなたならどうする?」
と恋人のこととか、両親のことからちょっとした仲間とのトラブルにいたるまで親身になって相談に乗るのだった。

香織は、本当に亜理紗を頼って心強い先輩と尊敬されている。それだけに香織にだけは自分の情けない姿だけは知られたくなかった。
その時葉月が
「亜理紗チーフの恋人が機内に」
「余計なことを言うんじゃないの」
亜理紗は、目をつりあげ葉月に怒って見せた。

気がつくと新人いずみも帰ってきていた。亜理紗は恥ずかしそうにして小さくなっていた。
舞衣子が、
「ねえ、亜理紗、ラブラブのようだけど、今は仕事中だから、ニューヨーク着いてから逢うのはいいけど」
葉月も、
「あのう、こんなこと亜理紗チーフに言ってわるいんですけど、彼の夕食にメモを書いてパンの下にそれを置くとか」
舞衣子も
「ニューヨーク着いた時、デッキでそっとメモを上げるとか」

香織が、
「それとも亜理紗、私がお客さまのところに行って、錦小路裕彦さんをここに呼んできてあげようか」
「そんな」
「お客さまとの対応、会社の規則にあるけど、すでに亜理紗は昔からのお知り合いだから、チーフが行くと目立つし」
「香織、ありがとう、でも私」
「それでここで彼とここで話している間、少しくらいなら、住所とか電話聞くくらいなら、席はずしてもいいよ」

葉月が、
「何だったらケータイっていっても番号わからないか」
「それにわかったとしてもいつもお客さまに機内でのケータイのご使用は計器を狂わせますといってるじゃない、その私たちが」
亜理紗が大きな声を出したので皆、びっくりした。

「皆さん、お気持ちだけでいいの」
「なに、私たちその間、席はずしてお客さまのサービスだって出来るんだし」
「皆、本当にありがとね」
亜理紗は、私の彼のためにこんなに皆が親切にしてくれてと思うと、思わず目になみだが溜まりギャレーの仲間たちってなんと優しく思いやりがありあり素晴らしい仲間だろうと胸があつくなった。










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